必ずしも私たちが上手に語れない理由とは
■映画やアニメ、マンガもストーリー
おとぎ話だけでなく、映画やアニメや、マンガもストーリーになっています。
例えば、皆さんもよくご存じの映画スターウォーズを例にとってみましょう。
エピソードⅣ「新たなる希望」(スターウォーズシリーズ第一作目の作品)
①場面設定…例の有名な字幕から始まります。「昔々、遥かかなたの銀河系で…」。太陽系が属する銀河系の中の過去の話であることが分かります。
②主人公…ルーク・スカイウォーカー(ジェダイの末裔)
③主人公の想いと行動…ルーク・スカイウォーカーが、住んでいる惑星で、ある日突然に育ての親を家ごと破壊され、殺されてしまいます。幸いルークは外出していて難を逃れましたが、悲嘆にくれる中で、メンターであるオビワン・ケノービーから実はルーク本人が狙われていたこととその理由を聞かされます。
さらに帝国の陰謀と、窮地に追い詰められた同盟軍の状況を聞き、悩んだ末、囚われの身となったレイア姫をデススターから救い出し、同盟軍に合流してデススターを破壊することを決意します。
④筋…ルークは、高速宇宙船ミレニアム・ファルコン号を操るならず者のハンソロに手伝ってもらい、デススターに向かいます。旅の途中、オビワンから自分の中に眠っていたフォースの力を覚醒させる術を学びます。そしてみんなでデススターにこっそり忍び込んだ上で、囚われていたレイア姫を救い出し、何とか脱出しますが、オビワンが犠牲になります。
⑤結末…同盟軍の仲間とデススターの攻撃に出かけ、ルーク本人も危うくダースベイダーの戦闘機に打ち落とされるところでしたが、間一髪逃れて、デススターの炉心めがけてミサイルを撃ち込み、デススターの破壊に成功したのでした。そして帰還後助け出したレイア姫とみんなでそれを喜び、ハッピーエンドとなりました。
このように、桃太郎の話もスターウォーズの話も物語の基本要素がしっかり組み込まれています。逆にいうと、我々は、物語を理解する時、この5つの要素で理解しようとしているといってもいいでしょう。そうすると、我々自身がストーリーテリングを行う際には、この5つの要素を押さえて、話をする必要があることが分かります。
■ストーリーテリングは実は身近なところにある
ストーリーテリングとかしこまった言い方をすると、あまり身近なものでないような気がするかもしれませんが、今ご紹介したように、おとぎ話や映画もストーリーですし、ギリシャ神話や古事記等の神話や、子供の頃に読んだ、野口英世の伝記等の「偉人伝」や、三国志等の歴史書等もみなストーリーです。
東アジアの歴史書の場合には、編年体と紀伝体とがありますが、ストーリーになっているのは紀伝体の方です。そして私たちには、年次ごとに書かれている編年体よりも、三国志のような人物を中心とした紀伝体の方が分かりやすいし、面白いですよね。
そしてストーリーは、こうした読み物や観るものだけでなく、ふだん見聞きするものや、自分で語るものの中にも埋め込まれています。
例えば、社長の訓話や先輩や友人の体験談、人から聞いた話・うわさ、お爺さん、お婆さんから聞かされた話、または体験談、親から聞かされた話、兄弟の話等にもストーリー的な要素があり、いつどこで、誰がどう思って、何をしてどうなったという要素が組み込まれています。当然、自分がこれまで語ってきたことの中にもストーリー的な要素は一杯入っていたはずです。同級生とする昔話なんかも典型的なストーリーですよね。
ですので、ストーリーやそれを語るストーリーテリングというのは、自分自身と縁遠いものではなく、ごく身近なことであるわけです。
なのにどうして、我々は必ずしもうまく語れていないのでしょうか? それは、語り手が、出来事を伝えたり、自分がどう感じたかを伝えたりすることにばかり神経を使い、聞き手に共感してもらったり、聞き手の行動を引き起こすところまでは考えないで話をしているからです。
つまり、マーケティングの言葉でいうと、プロダクトアウト的なストーリーテリングになってしまっているからです。マーケティングでは、商品やサービスを購入してもらうのに、マーケットイン、つまりお客様の視点に立って、そのニーズを充足できるようなものを提供する必要があると言われます。ストーリーテリングも、聞き手の立場に立って、聞き手の心を動かすような語り方が必要になるわけです。
井口 嘉則
オフィス井口 代表