エーザイのその後:抗がん剤の貢献により売上回復
ではその後、エーザイはどうなったのでしょうか。
パテントクリフが2011年に起こり、2018年頃から売上高が回復しだすのですが、再浮上したきっかけである主力製品は、いずれも抗がん剤の製品になっています(図表12、13)。
売上が上昇傾向に乗った2019年のタイミングでようやく抗がん剤が主力製品になって、業績の持ち直しに成功しているということが、決算数値にきちんと反映されているのがわかります。
「主力製品がいきなりなくなってしまったら企業はどうするのか」というのが今回のテーマでした。
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①特許の切れる製品に対して、新たな主力製品の開発という対策を講じる
(成長性の高い抗がん剤の製薬会社を買収し、パテントクリフに間に合わせるように開発を進める)
②新薬の開発には時間がかかるため、開発期間に資金が尽きるのを防ぐための対策を講じる
(本業で減った現金を、資産等を売却することにより投資活動でも繋ぎつつ、抗がん剤を開発するまでの時間稼ぎをする)
③抗がん剤の開発により売上が再浮上し、業績を持ち直す
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という経営戦略がきれいにはまっているエーザイの事例でした。
まとめ:時系列分析の流れ
それでは、最後にここまでの一連の流れをおさらいしましょう。
まずは、売上の推移にトレンドがあることが読み取れます。2011年頃は、パテントクリフの影響が反映され、売上が減少していました。その後、2018年頃からは、新製品の販売に成功し売上が増加しています。
次に、別の角度から企業の状況に着目します。投資活動によるC/Fの推移を並べてみると、2008年だけ突き抜けています(図表16)。この頃の動きは、2011年頃に訪れるパテントクリフに備え、次の製品開発に向けた準備を行っていることが読み取れます。
最後に、FCFの推移状況を確認します。2011年頃はパテントクリフの影響で売上が大きく減少していました。しかし、FCFの動きは増加傾向にあります。これは、売上が減少し本業で資金を生み出すことが難しくなったため、その穴埋めに保有している資産を売却し資金を生み出している影響です。結果、投資活動によるC/Fで資金を生み出すことに成功し、FCFが増加しています。
以上、稼ぎ頭の製品を失ったエーザイが、V字復活するケーススタディでした。
パテントクリフという、将来必然的に訪れる事象に対しての対応や、新製品の開発期間の資金繰り対策も含めて非常に学びのある事例です。
このように、転換点や異常値を見つけ深掘りすることで、企業の裏側で何が起こっているのかを知るきっかけとなります。時系列分析をする際には、ぜひ参考にしてください。
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※※本稿の【情報のソース】※※
①有価証券報告書
・第1【企業の概況】
・第2【事業の状況】
・第5【経理の状況】
②決算説明会資料
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大手町のランダムウォーカー
Twitterフォロワー数10万人。公認会計士試験合格後、大手監査法人勤務を経て独立。「日本人全員が財務諸表を読める世界を創る」を合言葉に「大手町のランダムウォーカー」として「#会計クイズ」を始め、様々な業種・立場の人をネット上で巻き込み好評を博す。
現在は株式会社Fundaにて、営業メンバー・新規事業立ち上げメンバー向けにアプリを使ったビジネス研修サービスを提供。
初の著書『世界一楽しい決算書の読み方』(KADOKAWA)は紙・電子累計25万部を突破。