(※写真はイメージです/PIXTA)

決算書の実践的な読み方として、1つの企業を時系列で見る「時系列分析」がある。異なる年の業績を比較することによって、その数値が大きくなっているのか・小さくなっているのか、その原因は何かを探っていくアプローチだ。本稿では、大手町のランダムウォーカー氏の著書『世界一楽しい決算書の読み方[実践編]』(KADOKAWA)より、エーザイの時系列分析を紹介しよう。

Q1. エーザイの売上が急減した理由は一体何?

------------------------

【登場企業】

エーザイ…日本を中心にアメリカ、イギリス、中国、韓国などにも拠点を持つ製薬会社。市販医薬品では「チョコラBB」などが有名。

------------------------

 

本稿では製薬会社大手「エーザイ」の事例を見ていきましょう。テーマは、「連結売上高の約40%を稼ぐ商品がとある理由により、大きく減収となってしまった場合、企業はどのようなアクションを取るのか?」です。

 

この点について、決算数値の動きから読み取っていきましょう。

 

図表3は製薬メーカーのエーザイの売上高の推移をグラフ化したものです。2011年を境に売上高が大きく減少していることがわかります。一体何が起こったのでしょうか?

 

(C)OTE_WALK 2022
[図表3]2011年を境に売上高が大きく減少(>>答えは本文参照) (C)OTE_WALK 2022

新薬メーカーの経営論点「パテントクリフ」

新薬メーカーの経営論点にパテントクリフ(特許の崖)というものがあります。

 

新薬は上市後の数年間は特許で守られているため、その期間には独占的に商品を販売することが可能です。つまり、独占販売期間というものが存在します。

 

ところが、特許が切れてしまうと独占販売が難しくなるため、ジェネリック医薬品(後発医薬品)の参入で競争環境が急に激しくなり、その結果、売上高が急減することになります。メインの稼ぎ頭だった商品が稼ぎ頭ではなくなってしまう、これがパテントクリフです。

 

(C)OTE_WALK 2022
[図表4]新薬は特許切れが起こる (C)OTE_WALK 2022

 

つまり、冒頭の「売上が急減した理由」の答えは、そのままズバリ「特許切れ」ということになります。当時のエーザイの主力製品は「アリセプト」というアルツハイマー治療薬でした。ところが、特許が切れてしまった結果、アリセプトの売上高はたった1年で半分になってしまいます(図表5)。これは日本のみならず、海外(主にアメリカ)において、1,947億円(2010年3月期)→114億円(2012年3月期)と、約94%も減少してしまったことが大きな要因です。

 

(C)OTE_WALK 2022
[図表5]特許切れにより主力製品が消失 (C)OTE_WALK 2022

 

学生くん「でも、いつ特許が切れるかという情報は、事前にわかっているんですよね? エーザイは何も対策を打ってこなかったんですか?」

 

その通りです。ではエーザイのパテントクリフ対策を、財務数値の動きから読み取ってみましょう。

 

次ページQ2. 特許切れに対し、エーザイが講じていた対策は?
会計クイズを解くだけで財務3表がわかる 世界一楽しい決算書の読み方[実践編]

会計クイズを解くだけで財務3表がわかる 世界一楽しい決算書の読み方[実践編]

著:大手町のランダムウォーカー
イラスト:わかる

KADOKAWA

【シリーズ累計30万部突破】 決算書は大人の“知的エンタメ”だ! Twitterで10万人が熱狂中! クイズ×会話で実在企業のビジネス戦略を解き明かせ。 2021年一番売れた会計入門書*に待望の続編が登場! (*TONETS i…

人気記事ランキング

  • デイリー
  • 週間
  • 月間

メルマガ会員登録者の
ご案内

メルマガ会員限定記事をお読みいただける他、新着記事の一覧をメールで配信。カメハメハ倶楽部主催の各種セミナー案内等、知的武装をし、行動するための情報を厳選してお届けします。

メルマガ登録