Q1. エーザイの売上が急減した理由は一体何?
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【登場企業】
エーザイ…日本を中心にアメリカ、イギリス、中国、韓国などにも拠点を持つ製薬会社。市販医薬品では「チョコラBB」などが有名。
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本稿では製薬会社大手「エーザイ」の事例を見ていきましょう。テーマは、「連結売上高の約40%を稼ぐ商品がとある理由により、大きく減収となってしまった場合、企業はどのようなアクションを取るのか?」です。
この点について、決算数値の動きから読み取っていきましょう。
図表3は製薬メーカーのエーザイの売上高の推移をグラフ化したものです。2011年を境に売上高が大きく減少していることがわかります。一体何が起こったのでしょうか?
新薬メーカーの経営論点「パテントクリフ」
新薬メーカーの経営論点にパテントクリフ(特許の崖)というものがあります。
新薬は上市後の数年間は特許で守られているため、その期間には独占的に商品を販売することが可能です。つまり、独占販売期間というものが存在します。
ところが、特許が切れてしまうと独占販売が難しくなるため、ジェネリック医薬品(後発医薬品)の参入で競争環境が急に激しくなり、その結果、売上高が急減することになります。メインの稼ぎ頭だった商品が稼ぎ頭ではなくなってしまう、これがパテントクリフです。
つまり、冒頭の「売上が急減した理由」の答えは、そのままズバリ「特許切れ」ということになります。当時のエーザイの主力製品は「アリセプト」というアルツハイマー治療薬でした。ところが、特許が切れてしまった結果、アリセプトの売上高はたった1年で半分になってしまいます(図表5)。これは日本のみならず、海外(主にアメリカ)において、1,947億円(2010年3月期)→114億円(2012年3月期)と、約94%も減少してしまったことが大きな要因です。
学生くん「でも、いつ特許が切れるかという情報は、事前にわかっているんですよね? エーザイは何も対策を打ってこなかったんですか?」
その通りです。ではエーザイのパテントクリフ対策を、財務数値の動きから読み取ってみましょう。