【本稿の登場企業】
任天堂:「マリオ」や「ポケモン」等で世界的に有名なゲームメーカー。ゲームソフトのみならず、Nintendo Switchのようなハードウェアも生産。
かつて「3DSの大不振」で赤字に陥った任天堂だが…
学生くん「任天堂の業績が不安定なことはわかったんですけど、これだけ不安定だと関係者は怖くないんですか?」
投資家さん「ヒットゲームなんて狙って作れるものでもなさそうだしね。任天堂くらいになると話題作も尽きなさそうではあるけど…。」
大手町さん「実は『不安定な業績に対する任天堂の対応策』も決算書から読み取れるんだ。」
業績の変動が激しい任天堂ですが、どのような対策を取っているのでしょうか? 任天堂の戦略を決算資料から読み取っていきます。
任天堂の「不安定な業績」への備えとは?
【解説①:1兆円を超える現金を保有】
貸借対照表の「資産の内訳」を見てわかるように、実は任天堂は多額の現金等を保有しています(図表3)。
日本で1兆円近くの現金を持っている会社はなかなかありません。手元に多額の現金等を保有することで、業績が悪化した際の安全性の確保はもちろんのこと、いつでも次の開発投資等を開始できる状態を維持しています。
学生くん「ゲームを開発する人も、心の余裕が大事ですよね。『ヒットゲームを作らないと会社が潰れてしまう』なんて圧力がかかってしまうと、作れるものも作れなくなってしまいますし。」
【解説②:無借金経営】
次に貸借対照表の負債の内訳を確認してみると、借入金等の有利子負債がほぼ存在しません(図表4)。このように、任天堂は無借金経営を長年継続しており、現金の流出を抑えていることがわかります。
【解説③:ファブレス経営】
任天堂は自社で工場を持たないファブレス経営を採用しています。工場を自社で持たないことから、総資産に占める有形固定資産の比率は非常に少なくなっています(図表5)。製造を外部の企業に委託することで、工場の運営により発生する固定費を抑え、売上高が落ちても赤字に陥るリスクを減らしています。
事業の特性上、業績の変動が激しい任天堂ですが、このように様々な対策を取ることで、業績が落ち込んでも耐えられるだけの財務体質となっています。
業績の変動が激しいというのは任天堂に限った話ではなく、多くのゲーム会社にも共通する特徴です。したがって、任天堂と同様に現金保有率を高めたり、借入金の比率を抑えたりするゲーム会社も多いという理由から、ゲーム会社各社の決算書はどこも似たような形になることが多いのです(図表6)。
学生くん「3DSで業績が落ちても、現金を多く保有しているから、Switchの開発資金を捻出することができたんですね!」
投資家さん「現金を多く保有していたり、無借金にしていたりと、仮に業績が傾いたとしても、資金繰りへの対策はしっかりしているね。」
銀行員さん「資産の持ち方や財政状態からも、任天堂という企業の特徴が見えてきますね。」
今後、業界特有の「業績のブレ」は小さくなる可能性も
任天堂は今後もこのような業績の変動が激しい状態が続くのでしょうか? ここからは、過去の業績を踏まえたうえで、未来への考察についてをお話しします。
近年はゲームハードのビジネスモデルも変化しつつあります。たとえば、SONYの復活の立役者であるPlayStation 4ですが、従来のPlayStationシリーズとは収益モデルに大きな違いがあります。従来のモデルは販売して終わりの売り切り型の収益モデルだったのですが、PlayStation 4は売り切り型に加えてサブスクリプション(継続課金サービス)を組み合わせた収益モデルとなっています(図表7)。
その結果、販売した瞬間のみならず、販売した後も継続的に収益を得ることができるようになり、大きく売上高に貢献しました。
Nintendo SwitchもPlayStationと同様にサブスクリプションサービスを取り入れています(図表8)。月額300円ほどですが、2021年11月時点で有料会員数は3,200万人を突破しています。
このように、従来は販売したタイミングでしか収益は発生しませんでしたが、販売した後も継続的に収益を生み出す仕組みが構築されつつあります。したがって、業績のブレも以前に比べると安定していく可能性は十分にあると考えられます。
営業さん「売上高変動の上下は、サブスクリプションの収入が増加するにつれて徐々に安定してくる可能性もありそうですね。」
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※※本稿の【情報のソース】※※
①有価証券報告書
・第1【企業の概況】
・第2【事業の状況】
・第5【経理の状況】
②決算説明会資料
③適時開示
④企業HP
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大手町のランダムウォーカー
Twitterフォロワー数10万人。公認会計士試験合格後、大手監査法人勤務を経て独立。「日本人全員が財務諸表を読める世界を創る」を合言葉に「大手町のランダムウォーカー」として「#会計クイズ」を始め、様々な業種・立場の人をネット上で巻き込み好評を博す。
現在は株式会社Fundaにて、営業メンバー・新規事業立ち上げメンバー向けにアプリを使ったビジネス研修サービスを提供。
初の著書『世界一楽しい決算書の読み方』(KADOKAWA)は紙・電子累計25万部を突破。