【本稿の登場企業】
●丸井グループ…ファッションビルの丸井やクレカ事業のエポスカードなどを傘下に持つ。
●三越伊勢丹HD…新宿、銀座、日本橋等の一等地に出店する老舗百貨店を運営。
両社とも「百貨店の運営会社」だが、稼ぎ方は全く違う
丸井グループは主に金融事業で儲けているので、貸付や割賦売掛金(分割払い)などで資産が構成されているため、流動資産が非常に厚くなっています。一方、三越伊勢丹HDは一等地に土地などを持っているので、固定資産が非常に大きくなりやすい業態です。貸借対照表上には、この両社の違いが明確に現れています。
こうした内容を踏まえると、損益計算書の見え方もかなり変わってきます。
コロナ禍でも丸井グループが黒字を維持した理由とは?
さて、図表4に示したのはコロナ禍での百貨店の比較です。先ほどと全く同じ事例ですが、今度は丸井グループと三越伊勢丹HDの損益計算書を並べています。
先ほどの貸借対照表の説明を踏まえた上で、コロナ禍ではどちらの百貨店の方が有利に働いているのかを読み取ってみましょう。
見るとわかる通り、丸井グループはコロナ禍でも利益が出ています。一方、三越伊勢丹HDは赤字となっており、同じ百貨店を運営している会社でも、コロナ禍で受ける影響が異なるということが読み取れます。
コロナ禍において丸井グループで赤字が出なかったのはなぜかというと、これは売上のメインがエポスカードによる金融の売上高だからという側面があります。エポスカードの売上は取扱高×手数料で表せます(図表5)。
丸井グループの売上原価には、エポスカードの発行や会員向けサービスの提供に関する費用などが計上されています(図表6)。
また、百貨店ビジネスや小売の売上原価なども当然入ってきますが、売上の大半が金融ビジネスであるため、売上原価自体は他の百貨店に比べると非常に小さくなりやすいという特徴があります。
取扱高を見ると、実は小売ビジネスは取扱高が減っているにもかかわらず、フィンテックの売上はコロナ禍でも微増しています(図表7)。
2021年は売上高が下がってはいるものの(図表8)、実は、丸井グループは売上の大半がストック収入で構成されています。
ストック収入というのは、1人の顧客から長期間にわたって継続的に収益を得ることができる収入のことです。対して、フロー収入は売って終わりです。
リボ払いやキャッシングの特徴として、お金を貸し付けたあとは、定期的に1人のお客さんから「利息」という形で継続的な収入を得ることができます。
また、不動産事業でも同様のことがいえます。丸井グループはブランドに対してテナントを貸しているので、商品がどれだけ売れるかにかかわらず、家賃収入が入ります。
従来の百貨店ビジネスは消化仕入れというビジネスモデルになっていて、百貨店に商品を置ける権利を小売などに提供していた一方で、丸井グループは商品販売数の多寡によらず、一定のテナント収入が入ります。
つまり、金融や不動産といったストック収入が中心になっているので、顧客が来なかったとしても収益を上げられるというビジネス上の強みを持っているのです。
黒字を維持できる仕組みが整っていたからこそ、コロナ禍の決算でも黒字を実現できたのでしょう。
コロナ禍、三越伊勢丹HDが赤字になった背景
一方、三越伊勢丹HDはほとんどが百貨店ビジネスの売上で構成されています(図表3)。
百貨店ビジネスにおける売上の変数は、顧客数×平均購売単価。これが百貨店ビジネスの売上を構成しています。三越伊勢丹HDに関しては、百貨店業は基本的に商品の仕入販売が基本となるので、原価率は高くなり、売上に連動するという性質があります。
これが先ほど述べた消化仕入れという百貨店独特のビジネスモデルになっていて、基本的に百貨店はリスクを負わない仕組みになっています(図表10)。
つまり、商品が売れなかったら返品するので、売れた時に初めて仕入れを認識するという考え方になっています。その純粋な百貨店の仕入れビジネスをやっているのが三越伊勢丹HDです。
これは原価率が高くなりやすい傾向があるほか、商品の販売収入が中心なので、コロナ禍のようにお客さんが店頭へ来なくなると、当然、売上が一気に減ってしまいます(図表10、11)。これが、三越伊勢丹HDが赤字になった背景です。
1つの企業に対して、貸借対照表でどのようなビジネスをしているのかを見たあと、あらためて損益計算書を見ると、よりその企業への理解が深まります。
大手町のランダムウォーカー
Twitterフォロワー数10万人。公認会計士試験合格後、大手監査法人勤務を経て独立。「日本人全員が財務諸表を読める世界を創る」を合言葉に「大手町のランダムウォーカー」として「#会計クイズ」を始め、様々な業種・立場の人をネット上で巻き込み好評を博す。
現在は株式会社Fundaにて、営業メンバー・新規事業立ち上げメンバー向けにアプリを使ったビジネス研修サービスを提供。
初の著書『世界一楽しい決算書の読み方』(KADOKAWA)は紙・電子累計25万部を突破。