米軍の活動とテロとは因果関係がある
■米国が軍事費を減らすとテロが増える
こうしたテロに対しては、強硬なスタンスで対処すべきだという考え方と、柔軟な姿勢で臨むべきだという考え方の2つがあり、国際社会はまとまった対応ができていません。最終的には、米国がテロに対してどのようなスタンスで臨むのかというところに収束するわけですが、その米国も基本的な外交戦略をめぐって揺れている状況です。
第二次世界大戦以降の米国は、良くも悪くも、世界の警察官として振る舞っていました。中東問題にも深く関与し、湾岸戦争やイラク戦争に代表されるように、場合によっては直接的な武力介入を積極的に行っていたのです。
しかし、オバマ政権になり、状況は大きく変わりました。オバマ政権は、かつてない水準の軍縮を推進、中東に配備する米軍の規模を大幅に縮小しています。これはオバマ大統領の外交方針による部分もありますが、それだけが原因ではありません。米国においてシェールガスの生産が増えていることで、エネルギーをめぐる地政学的な状況が変化しているのです。
米国はサウジアラビアを抜いて今や世界最大の産油国です。米国は近い将来、すべてのエネルギーを自給できる見通しが立っており、中東の石油に頼る必要がなくなっています。わざわざリスクを負って、世界の警察官を演じるのは得策ではないと感じる米国人が増えており、オバマ政権の外交方針もこうした世論の影響を受けています。
米国が中東から手を引くことで、テロが減るのではないかとの期待もありましたが、現実はまったく逆のようです。
先ほど示したテロの発生件数に対して、米国の軍事費の増加ペース(1年あたりの増加率)の相関を取るとマイナス0・5という数字が得られます。マイナスの相関ということは、米国が軍事費を増やすとテロが減り、軍事費を減らすとテロが増加するという関係になります。あくまでこれは相関関係を示しているだけなので、米国の軍事費とテロに直接的な関係があるのかはわかりません。
しかし、米国の軍拡期には、確実に中東に対する直接的な力の行使がありますから、米軍の活動とテロにはやはりそれなりの因果関係がありそうです。もし今後も米国がオバマ政権のような「引きこもり外交」を継続した場合には、残念なことですが、テロ活動が活発化する可能性があるわけです。
オバマ政権より前の時代、各国は、米国の中東に対する軍事力の行使について、テロの増加につながるとして米国を強く非難していました。しかし、いざ米国が中東から手を引くと、テロ抑制のため、今度は米国に対して中東への強い関与を求めるという皮肉な状況となっています。
■実は日本は隠れたテロ大国
日本人の多くは、日本はテロとは無関係の国であると考えています。確かに、パリの同時多発テロのような大規模なイスラム系のテロは起こっていません。しかし、日本は私たちが思っているほどテロと無縁な国ではなく、国際社会からもそのように認識されています。その理由は日本でもかなり凶悪なテロが現実に発生しているからです。
1991年には反イスラム的とされた書籍『悪魔の詩』を翻訳した筑波大学の助教授が何者かに暗殺されるという事件が起こっています。また1995年にはあの地下鉄サリン事件が発生しました。死者13名、負傷者6000名以上を出したこの事件は、負傷者数では世界のテロ事件の中でもトップクラスとなっています。
グローバルに見ると、日本は9・11に匹敵する大規模テロを経験した国であり、実際、世界の警察・公安関係者はそう認識しています。
さらにいえば、日本では1995年に警察庁長官が何者かに狙撃されるという事件が発生しており、犯人は捕まらず時効が成立しています。もし、米国で警察トップ(FBI長官)が狙撃されるという事件が発生すれば、想像を絶する混乱が発生すると思われますが、日本ではすでに同程度の事件が起こっているのです。
さらに時代を遡ると、凶悪なテロ事件が散見されます。
戦前の昭和期には、血盟団事件など右翼による要人殺害テロが頻発していましたし、戦後も連合赤軍事件など凄惨なテロが起こっています。
日本はテロとは無関係な国だという認識はあらためた方がよさそうです。
加谷 珪一
経済評論家
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