ロシアの軍事侵攻と原油価格…なぜ価格が高騰しているのか?

世界から見た戦争とお金⑤

ロシアの軍事侵攻と原油価格…なぜ価格が高騰しているのか?
(※写真はイメージです/PIXTA)

値上がりし続けるガソリン価格。背景にあるのはロシアによるウクライナへの軍事侵攻です。ロシアからの原油輸出が滞るのではないかという懸念から原油価格が高騰しているからです。経済評論家の加谷珪一氏が著書『戦争の値段 教養として身につけておきたい戦争と経済の本質』(祥伝社黄金文庫)で解説します。

原油市場の力は核兵器級のダメージ

ロシアは原油価格の下落で苦境に陥っていると解説しました。原油価格は最終的に市場が決定するものですが、ロシアを苦しい状況に追い込むために、誰かが価格形成に恣意的に介入していると仮定したらどうでしょうか。原油価格は、実は戦争以上の効果をもたらしていることになります。

 

■原油価格の下落でロシア経済は大混乱

 

2014年の中頃まで、原油価格は1バレルあたり100ドル前後で推移していましたが、年後半から価格が急落、一時は30ドル台前半まで売り込まれました。

 

原油価格が各国にどのような影響を与えるのかについては、石油の生産と消費がどうなっているのかについて知る必要があるでしょう。

 

世界でもっとも大量に石油を生産しているのは米国で、2014年には、1日あたり1200万バレルの原油を生産していました。2番目はサウジアラビアで1200万バレル弱の生産量となっています。サウジアラビアは2013年まではトップの生産量でしたが、米国の生産量が増えたことで1位の座を明け渡しました。3番目はロシアで1100万バレルの生産量となっています。

 

出典:加谷珪一著『戦争の値段 教養として身につけておきたい戦争と経済の本質』(祥伝社黄金文庫)より。
出典:加谷珪一著『戦争の値段 教養として身につけておきたい戦争と経済の本質』(祥伝社黄金文庫)より。

 

全世界的に見るとこの3カ国が石油の三大生産拠点であり、全世界の産出量の4割を占めています。石油の多くが中東で産出されているというイメージがありますが、中東の産油国をすべて足し合わせても全体の3割程度しかありません。やはりトップ3カ国の存在感が大きいと考えるべきでしょう。

 

ロシアは米国とサウジアラビアに次ぐ石油大国ということになりますが、市場の価格形成にあまり影響力を行使できていません。

 

その理由は2つあると考えられます。1つはロシアにはグローバルに通用する金融市場がなく、市場に対する介入余地が小さいことです。もう1つは、ロシアの原油採掘コストが高く、価格競争力がないことです。

 

原油価格の下落で産油国は大きな打撃を受けましたが、とりわけ石油の採掘コストが高いロシアは致命的な影響を受けています。

 

ロシアは2013年には年間約5000億ドルの輸出を行っていますが、その7割は石油などエネルギー関連となっており、原油だけでも約2500億ドルに達します。目立った産業のないロシアにとって、これは貴重な外貨獲得手段となっていたのです。原油価格の下落はこうしたロシアの財政を直撃することになります。

 

原油価格が100ドルから40ドルに下落すると、単純計算ではロシアの輸出額は3割以上減少することになり、金額ベースでは毎年18兆円もの損失です。

 

これに加えてロシアはクリミア侵攻にともなう経済制裁を各国から受けており、通貨ルーブルは暴落しています。クリミア侵攻以前と比較してルーブルの対ドル・レートは半分以下となっており、ロシアからの資金流出がなかなか止まりません。

 

ロシアは軍事的オペレーションを継続するため、ドルなどの外貨を必要としていますが、軍事的オペレーションによって外貨の獲得がさらに困難になるという皮肉な状況です。先ほど説明した、かつてのクリミア戦争と同じ状況が繰り返されていることになりますから、米国にとっては好都合でしょう。原油安はロシアに対して核兵器級のダメージをもたらしているわけです。

 

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本連載は加谷珪一氏の著書『戦争の値段 教養として身につけておきたい戦争と経済の本質』((祥伝社黄金文庫)より一部を抜粋し、再編集したものです。基本的に書籍が出版された2016年当時の記述となっており、各種統計の数字は2016年時点のものです。国際情勢が変化し、追記が必要な部分については、著者注として補足しています。

戦争の値段――教養として身につけておきたい戦争と経済の本質

戦争の値段――教養として身につけておきたい戦争と経済の本質

加谷 珪一

祥伝社

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