二代目社長の発表会成功のワケ
■「語り方」を身につければ、もっとうまくいく
「語り方」は、場面や状況によって変わってきます。
皆の意見や考えを聞きたいときは、「意見を求める語り方」、自分の考えや意見を説得力をもって伝えたいときは、「説得力のある語り方」、このままではまずいというときは、「危機意識を持たせる語り方」、人を安心させたいときは、「安心感を持たせる語り方」、自分が達成したい目標や将来像を語るときは、「ビジョン・目標を示す語り方」、一緒にやろうと共同作業を促す場合は、「共同作業を促す語り方」等が必要になって来ます。
場面や状況によって「語り方」が異なるので、いろいろなパターンがあります。そうすると「それは大変だ」と思われるかもしれません。しかし、全部のパターンを覚えなければいけないかというと、必ずしもそうではありません。やはり、「語り方」の原理原則、基本というものがありますので、それを押さえた語り方をすれば、全部を丸暗記する必要はないわけです。
ただ、「語り方」というのは、実技ですから、単に理屈や理論を分かっただけでは、うまく使えるようにはなりません。理論を分かった上で、実戦で練習して腕前を上げていく必要があります。
私は、コンサルティングや研修の一環として、「語り方」の指導も行ってきています。
例えば、以前ある会社で、オーナー経営者であった父親が亡くなって、若くして後を継がなければならなくなった30代の若社長がいました。営業経験が少なく、どちらかというと管理部門向きの人で、社内で朝礼をやっていても、話が面白くなく、社員がすぐに話を聞かなくなってしまう人がいました。
その会社の新しい門出として、中期経営計画を策定して発表するお手伝いをしたのですが、社内発表する段になって、それまでの話し方では、とても社員が納得できるような話ができそうにないことが問題になりました。そこで別途「語り方」の特訓を行うことにしました。そして、若社長と私の2人で練習会を行いました。
練習会は、こんな感じで進めました。広めの会議室で、社長には前方に立ってもらい、私は、中ほどの席に座って、テーマは自由にして、社長に何か自分が言いたいことを短めに話してもらいました。社長の話を一通り聞き終わった後で、それに対して、今の話し方はどうであったか、また、そのテーマならどう語ったらいいかを何点かアドバイスしました。そういうセッションを何回か実施したのです。
そして、いよいよ発表会の当日、若い社員たちの前で社長が自分の想いを語り始めました。すると、途中から、前の方で女子社員のすすり泣く声が聞こえ始め、だんだんとその輪が広がっていきました。そして最後は皆が社長の話に感動して、シーンと静まり返ったのでした。そしてこの中期経営計画の社内発表会は大成功を収め、若社長の下で、みんな協力して新たなスタートを切ることができたのでした。
この事例にあるように、「語り方」は、意欲と練習によって高めることができます。ですから皆さんも、本連載で紹介する「語り方」を身に着けて、皆さんが直面する場面や状況に合った語り方をしてもらい、仕事やプロジェクトを成功に導いてもらいたいと思います。こうしたノウハウを知らないで、我流、無手勝流で臨んで、残念な結果にならないよう、気をつけて頂きたいと思います。
井口 嘉則
オフィス井口 代表