自社株の引き継ぎ方法②:生前贈与する
現経営者が存命のうちに、後継者へ株式を生前贈与してもよいでしょう。贈与税の納税猶予を受けられる制度の利用で、税金の負担を抑えられる可能性がある方法です。ただし相続時のトラブルには注意しましょう。
お得に贈与できる制度を活用できる
生前贈与では、現経営者が生きている間に、後継者へ株式を贈与します。贈与の方法は下記の2種類です。
●暦年課税制度:年間110万円の基礎控除額、少しずつ贈与することで税金を抑えながら株式を引き継げる
●相続時精算課税制度:父母や祖父母から20歳以上の子または孫への相続時に利用可能、2,500万円の特別控除額、株価が低いタイミングで一気に贈与するときに有利
加えて『法人版事業承継税制』の利用も可能です。要件を満たし制度を利用できれば、贈与税の支払いを猶予され、後継者の死亡といったタイミングで納付が免除されます。
特別受益となる点に注意
贈与で後継者が受け取った株式は『特別受益』の対象です。特別受益は法定相続人が請求できる遺留分の対象でもあるため、後継者以外の相続人が望めば、遺留分を渡さなければいけません。
後継者が遺留分相当の現金で支払えればすぐに解決しますが、用意できなければ裁判所での調停や審判が必要になるかもしれません。スムーズな事業承継や事業運営に影響が出る可能性があるでしょう。
自社株の引き継ぎ方法③:相続で株式を引き継ぐ
相続を利用し、後継者が株式を引き継ぐ方法もあります。贈与時にかかる贈与税より相続税の方が税率は低く設定されています。ただし株式の分散には注意が必要です。
税金における贈与との違い
相続と生前贈与を比べると、税率のみでは相続の方が有利です。例えば同じ3,000万円分の株式を取得する場合、20歳以上の子や孫への贈与なら45%の税率ですが、相続なら15%で済みます。
ただし税率だけでは、どちらを選ぶのがよいかは判断しきれません。特例や制度の活用によっては、税率が高くても贈与を利用した方がよいケースもあります。適用される特例や制度は状況によって異なるため、経営者や後継者に適したものを選びましょう。
株式分散の防止策を講じる
生前贈与と比較し税率が低く設定されている相続を利用するときには、『株式分散』に注意が必要です。後継者に株式や事業に必要な資産を集中させようとしても、他の相続人から遺留分を請求される可能性があります。場合によっては株式を相続人で分割することとなり、後継者が経営権を掌握できないかもしれません。後継者以外の相続人が会社に対し拒否権や支配権を持つと、重要な意思決定が難しくなります。
計画していた事業展開ができない状況も起こり得る事態です。株式分散によるトラブルを避けるには、遺言書の作成や計画的な生前贈与・議決権制限株式の発行などで対策しましょう。
まとめ:早めの準備で税負担軽減とトラブル対策を
事業承継を実施するときには、後継者が株式を引き継ぎ経営権を取得します。相続によるトラブルを避けるなら売買が向いているものの、資金力が必要です。
資金が少なければ生前贈与や相続を利用します。ただしどちらも、後継者以外の相続人から遺留分を請求されるかもしれません。時間をかけて準備することで、株式を引き継ぐ際のトラブルを避けやすくなります。