太平洋戦争で「インフレ」に襲われた日本と米国の決定的な違い

戦争と経済にはどんな関係があるのか④

太平洋戦争で「インフレ」に襲われた日本と米国の決定的な違い
(※写真はイメージです/PIXTA)

太平洋戦争は最終的に日本経済の破綻と準ハイパーインフレをもたらしました。一方、米国は物価が2倍程度に収まったといいます。経済評論家の加谷珪一氏が著書『戦争の値段 教養として身につけておきたい戦争と経済の本質』(祥伝社黄金文庫)で解説します。

米国がインフレに苦しんだのはベトナム戦争

■同じ期間、米国のインフレは約2倍

 

日本ほどではありませんが、米国も第二次世界大戦は大きな負担でしたから、それなりにインフレが進んでいます。

 

第二次世界大戦が始まる1939年から、戦争が終わる1945年までの間に、卸売物価指数は約1.4倍に上昇しました。また戦争が終了してからもしばらくインフレが続き、朝鮮戦争が始まった翌年の1951年には、さらに1.5倍に物価が上昇しています。最終的には、戦争によって約2倍に物価が上がったことになります。

 

米国は経済の基礎体力が大きいですから、通常の経済活動をあまり制限することなく戦争を遂行することができました。また国債も基本的には市場を通じて消化されましたので、日本のような悪性インフレは発生していません。

 

ただ米国の中央銀行にあたるFRB(連邦準備制度理事会)は、政府の利払い負担を軽減することと、国債のスムーズな消化を目的として、金利が2.5%以上に上昇するような場合には、積極的な「買いオペレーション」を実施していました(中央銀行が金融機関の保有する有価証券などを購入し、資金が金融市場へ流れるよう供給すること。いわゆる金利の釘付け政策)。このため、金融は緩和的になり、インフレが進んだものと思われます。

 

その後、再び米国経済は成長軌道に乗ったことから、第二次世界大戦の戦費は、問題なく処理されていきました。

 

むしろ米国がインフレに苦しんだのは、ベトナム戦争末期の1970年代のことです。1960年には低く抑えられていたインフレ率ですが、1970年に入ると急上昇し、一時は年10%になった時期もあります。1970年から1980年までの間に、物価は2.5倍になりました。物価の上昇に比べて、経済成長が緩慢だったことから、スタグフレーション(不況下でのインフレ)とも呼ばれています。

 

ただ、この時期のインフレはベトナム戦争が直接の原因というわけではなく、オイルショックによる物価の上昇、ドルに対する信用不安、米国企業の国際競争力の低下など、複数の要因が絡み合って発生したものです。ベトナム戦争による財政支出増大は、ドル不安要素の1つではありますが、ベトナム戦争によるインフレとまではいえないでしょう。

 

70年代のインフレは、79年にFRB議長に就任したボルカー氏の強硬策によって収束することになりました。ボルカー氏は各方面の反対を押し切り、政策金利を一気に20%まで引き上げました。実質GDPも一時マイナスになりますが、これによってインフレは沈静化し、レーガノミックスによる高成長につながっていきます。

 

加谷 珪一
経済評論家

 

 

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本連載は加谷珪一氏の著書『戦争の値段 教養として身につけておきたい戦争と経済の本質』((祥伝社黄金文庫)より一部を抜粋し、再編集したものです。基本的に書籍が出版された2016年当時の記述となっており、各種統計の数字は2016年時点のものです。国際情勢が変化し、追記が必要な部分については、著者注として補足しています。

戦争の値段――教養として身につけておきたい戦争と経済の本質

戦争の値段――教養として身につけておきたい戦争と経済の本質

加谷 珪一

祥伝社

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