(※写真はイメージです/PIXTA)

不動産投資をするにはそれなりの知識がないと、詐欺まがいの話や悪意をもった業者の手口に簡単にひっかかってしまいます。例えば、物件広告を見て「利回りが8%以上ないとダメ」と判断するなど、利回りばかりに注目する個人投資家。これは非常に危険です。高利回り物件というのは、基本的に何らかのマイナス要素があるから利回りが高いのです。「かぼちゃの馬車事件」を例に、失敗しないための必須知識を見ていきましょう。

「かぼちゃの馬車事件」に見る“投資家側”の問題点

不動産投資の世界では、これまでも繰り返し詐欺まがいの取引や不祥事が起こってきました。2018年に発覚した「かぼちゃの馬車事件」が典型例です。

 

この事件の中心となったのは、2012年設立、わずか5年で売上高300億円を超える企業に成長した株式会社スマートデイズです。

 

同社の成長を支えたのは、首都圏を中心とした「かぼちゃの馬車」というブランド名の女性向けシェアハウスでした。スマートデイズはこの女性向けシェアハウスを個人投資家に販売し、購入したオーナーにはサブリース契約を結んで月々の賃料を保証するというビジネスモデルを展開していたのです。

 

しかし、スマートデイズは2018年1月に突如、経営危機を理由として家賃保証を停止しました。同年4月には民事再生法の適用を申請し、その後、破産に至りました。

 

家賃保証が受けられる前提で多額のローンを組み、その返済計画を立てていたオーナーたちが厳しい状況に追い込まれ、社会的にも大きなニュースになったというのが一連の流れです。

 

この事件の主な原因はサブリース契約の問題と、あとで触れる銀行融資の問題に集約されます。

 

サブリースは、借り上げ期間中は一定の家賃保証を受けられるという仕組みで、個人投資家にとっては空室によって収入が変動するリスクを抑えられます。「かぼちゃの馬車事件」の場合は、投資金額に対して保証される家賃の額が高かったことから人気を集めました。

 

しかし、家賃保証といっても保証した会社の経営が苦しくなれば金額が一方的に引き下げられることもありますし、ましてや破綻してしまえばなんの意味もありません。

 

そもそも投資用不動産(この場合はシェアハウス)そのものに問題がないのか、サブリースの仕組みとはどういうものかを正確に把握しておく必要があったといえます。

物件の適正価格を知らずに買う無謀

「かぼちゃの馬車事件」では、もちろん売主であるスマートデイズに大きな責任があるのは明らかです。ただ、個人投資家の側にも問題がなかったかといえば、そんなことはないと思います。

 

そもそも、自分たちが投資しようとしているシェアハウスの価格が適正なのかどうか、どこまでチェックしていたのか疑問です。

 

投資用不動産の価格は、新築でも中古でも市場で取引される売買価格が基本になります。不動産鑑定評価などでは便宜的に土地と建物に分けて計算したりしますが、実際には土地と建物を分けて取引するようなことはほとんどなく、まとめて計算するのが一般的です。

 

そのため価格が適正なのかどうかを判断するに当たって何より重要なのは、同じエリア内で直近に取引された事例です。似たような立地条件で、同じくらいの広さやグレードの物件が少なくとも半年以内、できれば3ヵ月以内くらいにいくらで売買されたのかを調べ、比較してみればそう大きく間違えることはありません。

 

そうした情報をまったくといっていいほど確認せず、スマートデイズの利回り8%、賃料30年保証などといったセールストークをそのまま鵜呑みにしていたとしたら、情報弱者といわれても仕方ありません。

不動産投資の収支計画をどこまでチェックしていたか?

不動産投資における情報弱者によく見られるケースは、不動産会社のセールストークをそのまま鵜呑みにすることだけではありません。

 

不動産投資は短くても数年から十数年、時には数十年という長期にわたる投資です。投資時点における家賃収入や利回りがどのくらいかを確認するだけでなく、向こう20年、30年といった長期的なスパンでの収入と支出の変化を想定する必要があります。これを収支計画といいます。

 

ところが不動産会社によっては、向こう20年、30年の間、賃料は一定で満室状態がずっと続き、修繕などの経費もほとんど変わらないといったずさんな収支計画を平気で出してくることがあります。一定の賃料を何十年も保証するというサブリース契約は、こうしたずさんな収支計画を本当らしく見せるという錯覚効果も狙っているのです。

 

収支計画を立てるに当たってはいろいろな条件が関係してきますが、特に重要なのが次の4つです。

 

①賃料

②空室率

③運営費

④ローン返済額(利息分と元金分の合計)

 

①賃料は、入居者の需要、周辺の競合物件の動向、経済状況などによって変わりますが、通常、築年数の経過に伴って緩やかに低下していきます。

 

②空室率は、築年数の経過に伴って緩やかに上昇していくのが一般的です。

 

③運営費は、管理会社に支払う管理費や入居者募集のための費用、共用部の水道光熱費、火災保険料、固定資産税、そして建物や設備の修繕費です。このうち修繕費は、築年数の経過に伴って増加していくのが普通です。

 

④ローン返済額は、金利と返済期間によって変わります。また、不動産投資では変動金利型のローンがほとんどで、年2回、適用金利が見直されます。そのため、金利が上昇すると当然、利息分が増えます。

 

こうした条件を踏まえた収支計画は本来、投資家が自分でつくってみるべきですが、不動産会社に対して賃料や空室率、諸費用についての参考資料を求めても構いません。そうした要望にきちんと対応してくれないような不動産会社なら、あまり信用しないほうがいいといえます。

マーケット調査や現地調査も不可欠

不動産投資における情報弱者によく見られるケースとしては、マーケット調査や現地調査を疎かにしているということもよくあります。

 

不動産投資の分野でもインターネットの普及によりさまざまな情報を簡単に手に入れられるようになりました。賃貸用不動産に特化した情報サイトがいくつもあり、物件情報を毎日、自宅で気軽に探すことができます。掲載物件の詳細な情報も、ネットで問い合わせればすぐ手に入ります。住所地が分かればグーグルマップで周辺状況を確認したり、相続税路線価を調べて地価の目安を知ったりすることもできます。

 

しかし、不動産投資ではインターネットの情報だけでこと足りたとするのは危険です。

 

株式や外国為替証拠金取引(FX)、仮想通貨などはインターネットで相場の動きを確認し、そのまま注文を出して取引ができます。それに比べ不動産の売買は法律上、書面での説明など一定の手続きが必要とされ(最近、オンラインでの説明も認められるようになりました)、ローンを利用するなら銀行審査も経なければなりません。

 

そもそも不動産には一つとして同じものはなく、立地や物件の状況は千差万別です。価格についても株式や外国為替、仮想通貨のように日々、大量に取引されてマーケットプライス(市場価格)が明確になっているわけではありません。売主との交渉などによって価格が変わることはごく普通です。

 

こうしたことから、インターネットで良い物件を見つけたとしても、マーケット調査と現地調査が不可欠なのです。

 

マーケット調査とは、物件のあるエリアの年齢別人口や世帯数、最寄り駅の乗降客数などのデータのほか、物件周辺の学校、スーパー、金融機関や役所など生活関連施設、そして特に賃料相場と競合物件について調べることです。

 

賃料相場と競合物件については、そのエリアに店舗を構えている地元の複数の賃貸仲介会社などに直接、ヒアリングするとよいです。

 

インターネットに掲載されているアパートや賃貸マンションの家賃は、家主が希望している「募集賃料」であって実際に入居者が決まる「実勢賃料」とは差があります(通常、「実勢賃料」のほうが低くなります)。また、地元の賃貸仲介会社にそのエリアではどういうタイプの入居者が多いか、入居を決めるに当たってどういう条件を重視するのかといった情報を聞き出すこともできます。

 

なお、ヒアリングするに当たっては、物件を取得したあとは入居者募集で相談するつもりであるといった、相手にとってメリットがある取引相手であると思ってもらえるように接します。

 

もう一つの「現地」調査は現地に足を運び、周辺状況や物件の外観、できれば室内も実際に見てチェックすることです。現地調査をすると多くの情報を得ることができます。

 

ここでは、現地調査で重要なポイントを2つ、ご紹介しておきます。

 

一つは建物の修繕状況や不具合です。こうした点はネット上のマップや写真でははっきりと分かりません。特に、外壁や屋根などの状態を確認し、雨漏りが発生する恐れはないか、防水や塗装のやり替えといった修繕はあとどれくらい(年数)で必要になりそうかを確認します。

 

もう一つは、ランニングコストに関わりそうな設備の状況です。物件概要書などであらかじめ分かっているものについてはもちろん、ほかに漏れはないか確認することが重要です。

 

例えば、貯水槽を使う給水方式の場合、点検費用や清掃費用がかかります。下水についても浄化槽を使う方式の場合、点検費用と汚泥引き抜き費用が発生します。

 

1棟アパートでよくあるのが、ガスが都市ガスかプロパンかがはっきりしていないケースです。ガス代は入居者の負担になるものですが、プロパンの場合、給湯設備などがガス会社からのレンタルになっていることがありますので、確認が必要です。

アベノミクス以降の超金融緩和がもたらした功罪

アベノミクスとは、第二次安倍政権が2013年から進めた経済政策の通称で、いわゆる「3本の矢」が柱となっていました。その一つが、日銀による異次元の金融緩和です。日銀は世の中に流通するお金の量を増やし続けたり、また国債を買い入れたりすることで金利を押し下げました。

 

その結果、不動産投資において銀行からローンを借りる際の金利が下がっただけでなく、融資審査の基準が緩和され、フルローンも当たり前になりました。知識のない普通のサラリーマンでも、フルローンで簡単に不動産投資を始めることができるようになったのです。

 

「かぼちゃの馬車事件」における当時のローンスキームもそうした状況から出てきたものです。

 

通常、多額の資金が必要となる不動産投資を始められるかどうかは、銀行ローンを利用できるかどうかにかかっているといっても過言ではありません。銀行は物件の担保価値と収益性、オーナーの返済能力などから融資の可否を判断します。

 

しかし、「かぼちゃの馬車事件」では物件自体の収益性に疑問符が付いていました。それを当時の提携銀行はローン契約者の収入や資産状況を重視して物件の収益性には目をつぶっていたようです。

 

また、「かぼちゃの馬車事件」ではローンを申し込んだ人がすべて収入などの審査基準を満たしていたわけではありませんでした。一部は預金通帳や口座の取引記録、源泉徴収票といった資料に手を加えて審査を通していたケースもあったようです。この事件をきっかけに金融庁は、不動産投資向け融資の引き締めを各金融機関に指示しました。

 

「かぼちゃの馬車事件」については不動産会社に加えて金融機関も絡んでおり、個人投資家は被害者であるという面があったのは事実です。

 

しかし、そうはいっても個人投資家側に正しい知識と情報があれば、こうした事件に巻き込まれ痛い目に遭う可能性は確実に減らすことができたはずです。

 

アベノミクス以降の金融緩和は、多くの人にとって不動産投資を身近なものにしたとともに、さまざまな弊害ももたらしたのです。

 

 

 

會田 和宏

株式会社あおば不動産販売 代表取締役

 

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