「出口戦略」を想定した収支計画を作る
出口戦略とは一般に、ものごとを始める入口に対し、それをいつ、どのような形で終わらせるか出口を考えることです。
不動産投資においては投資物件を一定期間、貸家賃貸業で運用したあと、土地と建物をそのまま売却するか、建物を取り壊して土地のみ売却するか、あるいは建物を新たに建て替えるか、といった選択肢が考えられます。
収支計画においてあらかじめこうした出口戦略を想定しておくことが大切です。
まず、いつ終わらせるかという点については、物件を購入してから5年経過すること(厳密には譲渡した年の1月1日現在の所有期間が5年を超えること)が大きな節目になります。なぜなら、売却益にかかる税金が倍ほど違ってくるからです。
不動産を売却して得た利益を税務では譲渡所得といいます。譲渡所得は購入から売却までの期間によって2つに区別されます。
譲渡した年の1月1日において所有期間が5年以下の場合は短期譲渡所得、5年を超える場合は長期譲渡所得です。
そして、所得税と住民税を合わせた税率は短期譲渡所得が約39%、長期譲渡所得が約20%です(「約」としているのは2037年までは所得税額に対して2.1%の割合で復興特別所得税が別にかかるため)。
不動産投資は中長期的な投資であり、よほど短期間で大きく値上がりするのでないかぎりは5年を超えて(譲渡した年の1月1日において判断することに注意!)所有してから売却するケースが多いです。
なお、譲渡所得は建物の減価償却費が関係するため、単純に買ったときの価格と売ったときの価格の差額というわけではありません。
物件種別ごとに出口戦略を想定する
次に、投資物件をどうするかという点については、物件種別の特性によって違いがあります。
<①区分マンション>
区分マンションはワンルームマンションの1室などのことです。マンションには多くの居室があり、それぞれの室内部分が所有権(区分所有権)の対象となっています。室内以外の部分、例えば建物の構造躯体やエレベーターなどの設備、また敷地は区分所有権をもつ人たち(区分所有者)全員の共有であり、それが出口戦略においては制約となります。
区分マンションの出口戦略は通常、区分所有権を第三者に売却することしかありません。また、ファミリータイプの区分マンションであればマイホームとして購入する人もいますが、ワンルームであれば投資家にほぼ限定されます。
もし購入者が見つからないような場合は、投資家自身やその関係者が住むということも考えられます。
<②1棟アパート>
1棟アパートは、土地と建物を投資家が所有します。そのため、出口戦略はかなり幅広くなります。
第一に、土地と建物を第三者に売却することです。マイホームとして購入する人はまずいないので通常、買い手は投資家です。
第二に、建物を取り壊して更地とし、第三者に売却することです。この場合、立地や面積にもよりますが、投資家だけでなく自宅用地として購入する人や建売住宅を建てるために購入する不動産会社なども考えられます。
ただし、建物を取り壊すには入居者がいないことが前提条件となり、立ち退き交渉や立ち退き料の支払いが必要になる可能性があります。将来、建物を取り壊すことを出口として想定するなら、入居者募集に当たっては定期借家契約を検討すべきです。
一般の借家契約では基本的に、借主が同意しない限り貸主の側から契約の解除や契約更新の拒否はできません。それに対して定期借家契約では、一定の要件を満たせば契約が満了したあと、明け渡しを請求できます。
定期借家契約の主な要件は次のとおりです。
●契約期間を確定的に定めること
●公正証書による等書面によって契約すること
●貸主が借主に対して、契約の更新はなく期間の満了とともに契約が終了することをあらかじめ書面(契約書ではないもの)を交付して説明すること
第三に、建物を取り壊した後、再び新しい建物を建てることも考えられます。元の建物で容積率(敷地面積に対する延べ床面積の割合)が余っている場合など、建て替えることで収益性が大きくアップすることもあります。また、アパートではなく自宅を建てるといったことも考えられます。
ただし、この場合も入居者の立ち退き交渉が必要になる可能性があるほか、建て替えのコストがかかるのでそれなりの資金力が必要です。
<③1棟マンション>
1棟マンションも基本的に1棟アパートと同じです。ただし、1棟マンションは1棟アパートより規模が大きく、構造も頑丈なので建物の解体費が高額になりやすい点には注意が必要です。
個人投資家にとっては、1棟マンションの出口として更地にしての売却や建て替えも想定できますが、そのハードルは高く、実際には第三者(特に投資家)に売却するしかないと思います。
<④戸建て>
1棟アパートの規模を小さくしたものです。
第三者への売却では投資家だけでなく、立地によってはマイホームとして購入する人も買い手として考えられます。その場合、リフォームして中古住宅として売却するか、更地にして売却するかの選択肢があります。
また、建物を自宅に建て替えたり、あるいは建て替えて新築の建売住宅として売却したりするといったことも考えられます。
不動産投資の出口戦略ではこのように、いつ、どのようにということをあらかじめ何通りか考えておきます。
會田 和宏
株式会社あおば不動産販売 代表取締役