(※写真はイメージです/PIXTA)

東西冷戦が西側自由主義陣営の勝利で終わり、専制主義ロシアの復活はないとという西側の楽観論は、ロシアのウクライナ侵略戦争で完全に吹き飛んでしまいました。ジャーナリストの田村秀男氏が著書『日本経済は再生できるか 「豊かな暮らし」を取り戻す最後の処方箋』(ワニブックスPLUS新書)で解説します。

独自外交を続けるトルコ帝国の遺伝子

英BBCは日本語版2022年6月11日付で、プーチンの野望を以下のように報じています(一部省略)。

 

〈プーチンは公然と自分を17世紀末〜18世紀のロシア皇帝、ピョートル1世になぞらえ、現在のウクライナ侵攻を約300年前の領土収奪のための戦争と同一視している。ピョートル1世は大国化を推進。大北方戦争でスウェーデンと長年にわたり領土戦争を繰り広げた。

 

プーチン氏は若い起業家や科学者との集まりで、「皆さんは、ピョートル大帝はスウェーデンと戦い、土地を奪ったのだと考えているかもしれない」と語った。だが、その地域には何世紀にもわたってスラヴ系民族が住んでいたと主張し、「大帝は何も奪っていない。奪い返したのだ!」と続け、「今の私たちにも、奪い返して強化する責任がある」と述べて笑った。〉

 

ピョートル一世は現在のバルト三国(リトアニア、ラトビア、エストニア)を併合し、黒海につながるアゾフ海に面したアゾフ要塞をめぐってオスマン・トルコ帝国と争いました。旧ソ連崩壊後バルト三国は独立し、2004年に北大西洋条約機構(NATO)に加盟しました。チェコ、ハンガリー、ポーランドの旧ソ連圏東欧3ヶ国は1999年に加盟済みです。

 

西側はプーチン発言に身構え、さらに結束を強め、拡大します。

 

2022年6月29日、スペインで開かれたNATO首脳会議は合意文書「マドリード首脳会議宣言」を発表し、このなかで北欧のフィンランドとスウェーデンの2ヶ国の加盟に向けた手続きを正式に始めると明らかにしました。

 

ウクライナ侵略戦争で対外膨張主義ロシアの脅威をまざまざと見せつけられた両国がこれまでの中立路線を転換し、集団安全保障へと路線転換したわけです。

 

注目すべきはトルコの役割です。フィンランド、スウェーデン両国の加盟にはNATOに加盟する30ヶ国すべての承認が必要ですが、難色を示していたトルコが支持に転じたことで加盟に向け大きく前進しました。トルコのエルドアン大統領は同時に、ロシアとウクライナの仲介役を務め、黒海経由のウクライナ産穀物の輸出再開合意を演出しました。

 

トルコはオスマン・トルコ帝国の時代からロシア帝国と戦争と和平を繰り返した歴史があり、米ソ冷戦が始まって間もない1952年にNATO入りしました。エルドアン氏は軍事面では西側同盟の一員であると同時に、ロシアとの友好関係の維持に努めることで独自の外交を展開し、現実主義に徹しているわけです。これもまた、17世紀から19世紀にかけて黒海の覇権を争ったトルコ帝国の遺伝子とでも言うべきでしょう。

 

日本の外務省や岸田文雄首相がよく口にする「普遍的価値を共有する国々の協調」にばかり頼っていても、平和が保てるとは少しも信じてはいないのがエルドアン氏なのです。

 

田村 秀男
産経新聞特別記者、編集委員兼論説委員

 

 

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本連載は田村秀男氏の著書『日本経済は再生できるか 「豊かな暮らし」を取り戻す最後の処方箋』(ワニブックスPLUS新書)より一部を抜粋し、再編集したものです。

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