「エピソード記憶」満載の情報ノート
▶(2)3ステップノート術
ここでは、記憶の観点から見た効率の良いノート術を紹介します。
授業や講義、または、ビジネス現場でのレクチャーなどの場面で使うことを想定したノート術です。このほかにも、会議やミーティングなどにおける個人的な議事録にも使える方法です。名前を3ステップノート術といいます。このノートの取り方の原理も、脳の記憶のメカニズムにあります。
授業や講義を聴きながらノートを取るというのは、よく考えると、実は難しい作業ということがわかります。話を聴きながら頭の中では思考を働かせ、板書やスライドがあればその内容をノートに写すというマルチタスクを同時に行わなければならないからです。
板書やスライドをただ書き写すのでは、授業や講義を受ける必要はありません。かといって、話を聴いているだけでは、あとになってからの復習のときに、大事なポイントを漏らしてしまう可能性があります。また、それらをしながら内容を理解するといった、認知機能も同時に働かせる必要があります。そんなわけで、ノートを取るという作業は、思った以上に困難な技術といえます。
ここで紹介する3ステップノート術を使えば、これらの問題点を克服することができます。
まず、考えなければならないのは、本連載で何度も出てきた「ワーキングメモリ」の能力についてです。授業や講義を聴きながら思考するためには、ワーキングメモリを働かせる必要があります。そのとき浮かんだ疑問やアイデアなどの思考を頭の中に留めておきつつ、授業や講義の内容を理解するために過去の記憶との照合作業なども行っているのです。
ワーキングメモリは便利な機能なのですが、何しろ情報を書き込むことができる容量が少なく、また、記憶しておける時間も短いという特徴があります。その理由で、授業や講義中に何か考えが浮かんだとしても、そこに新しい情報が提供されれば、ワーキングメモリの情報が上書きされてしまうのです。もしかしたら、その思考の中に素晴らしいアイデアの原石があったのに、流れていってしまったかもしれません。
そこであらかじめ、情報を書き写しつつ、浮かんだ思考も同時に書き込めることができる細工を準備しておくのが、3ステップノート術なのです。その細工は至って簡単です。見開きのノートのページを、右の図のように3列に区切っておくだけです。
この3列のうち、一番左の列は他の2列に比べ少しスペースを広くしておきます。ここが、板書やスライドの内容を書き写すためのスペースになります。
真ん中の列は、ノートを取りながら浮かんだ疑問やアイデア、気付きなどをタイムリーに書き込んでいく欄です。ここが、容量が少ないワーキングメモリのバックアップエリアになるというわけです。このエリアに頭の中から落とし込むことにより、ワーキングメモリの空きスペースが増え、思考力の低下を防ぐことができるのです。
残りの右端の列は、真ん中の列に書き込んだ内容に対するアウトプットを記入するエリアになります。真ん中のエリアの書き込み内容が疑問や質問だったとするならば、授業や講義が終わってから本や資料をあたったり講師に直接聞いたりして、疑問や質問を解決し、その結果を書き込んで決着させます。同様に、アイデアなどの場合でも、調べたり聞いたりして深堀りした結果を書き込むようにします。
こうすることによって、情報を受け身の状態で取り入れるのではなく、情報にアクティブに関わることになります。単なる授業や講義の記録ではなく、(1)でも出てきた「エピソード記憶」を体現した情報ノートに変わり、より強く記憶に定着できるようになるというわけです。
池田 義博
記憶力日本選手権大会最多優勝者(6回)
世界記憶力グランドマスター
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