スピード重視で薄い学習を繰り返す暗記法
これから紹介するメソッドは、実用的なツールという意味に加えて脳のトレーニングツールであるともいえます。そのことをいつも頭の隅に置いて、自分の置かれている場面・状況にあたってください。意識しているかしていないかが、将来的に大きな実力差を生みます。もし皆さんが意識的にイメージ思考を続けたならば、皆さんの脳力のステージは飛躍的に向上していくことでしょう。
(2)ペイントリーディング
ペイントリーディングとは、本や資料、テキストといったドキュメントの内容を長い期間記憶に残すための私の独自のメソッドです。ここでも、心理学的効果の「分散効果」を利用します。
ペイントリーディングのペイントとは、「ペンキ」のことです。薄い記憶を塗り重ねることが、ペンキ塗りの工程に似ていることからペイントリーディングと名付けました。
範囲の決まった学習をする場合、記憶の定着のためには、じっくり学習を進めるのではなく、スピード重視で薄い学習を繰り返し回転させたほうが、その後、長い期間頭に残る強い記憶が作れます。リーディングにもこの考え方を適用するというわけです。(1)のプライミングをしたうえでこの方法をとると、重要ポイントが浮かび上がってくるので、より効果的になります。
スピード重視のため、その場での理解度や記憶の定着率は下がりますが、それで結構です。まずはとにかく、全体を読み通すことが目的です。範囲のある対象におけるペイントリーディングの一度目の目的は、全体像の把握による骨組みの形成です。
スピード重視で読んできたので、当然、その骨組みは隙間だらけです。イメージとすれば、家を建てるときに最初に組み立てる骨組みの感じです。隙間があってもよく、骨組みを完成させることに意味があるのです。
脳は、全体像が把握できない相手に対しては、警戒して力を抑えてしまいます。全体像を見せることによって、安心して十分なパフォーマンスを発揮してくれることになるのです。
さらに、骨組みができたことによって、2回転目からのリーディングでの理解度は倍増します。また、補完するべき情報も明確になります。当然、前回の重要ポイントの復習になるので、その箇所の記憶もさらに強化されることになります。
ペイントリーディングは、読む対象である媒体の量によって、2通りの進め方が考えられます。
ペイントリーディング①フルレンジサイクル
読む対象の全体の量が少ない場合は、全体を1サイクルとしてそれを繰り返し読むということになるでしょう。量の判断基準は、最後まで読んだときに最初の頃の情報を見て、「そういえばあった」と思えるかどうかです。
記憶における効率的な復習の鉄則に、忘れかけた頃に行うというものがあります。
最後まで読んだときに最初のほうの情報をもう一度しっかり読まなければ理解できないレベルであったならば、全体を1サイクルにして読む量としては多いと判断できます。その場合は、②のブロックサイクルでの読み方をお勧めします。
●ペイントリーディング②ブロックサイクル
本やテキストのように全体の分量が多いものの場合には、このブロックサイクルの読み方が有効です。全体量が多いと、最後まで行ったときに最初の頃の内容は忘れてしまうからです。
実は、ブロックサイクルによる読み方は、私が記憶競技のために作ったメソッドなのです。制限時間1時間で、ランダムな数字の並びをできるだけ記憶するという競技があるのですが、このメソッドがあったおかげで、2000桁近くの数字を記憶することができたのです。
まずは、全体をいくつかのブロックに分けます。このとき、あえて本でいう章など区切りのいいところでブロックに分ける必要はありません。あくまでも、ページの量でブロックの単位を決めます。
ここでは、仮に1ブロックを10ページにしたとしましょう。次ページの図のように、10ページごとのブロック、A、B、C、D、E(以下省略)に分けます。ポイントは、ブロックごとの読み方のサイクルにあります。
A→A→B→A→B→C→B→C→D→C→D→E→(以下省略)という順番で読み進めます。もちろん、スピードは維持したままです。
チェックシートの作成に加えて、最初にブロックごとの先頭ページに付箋を貼っておくなどの工夫をしておけば、復習のときにページの頭出しがしやすいと思います。このように読み進めると、本やテキストの全体を読み終わったときに各ブロックは3回ずつ復習しながら読んだことになり、しっかりとした情報の骨組みが頭の中に作られることになります。
なお、一度目にブロックサイクル読みをした場合は、二度目からは①のフルレンジサイクルで繰り返すようにしてください。