MS&ADホールディングスの人員削減計画とは
MS&ADホールディングスは、傘下に「三井住友海上火災保険株式会社」「あいおいニッセイ同和損害保険株式会社」の損害保険2社と、生命保険会社である「三井住友海上あいおい生命保険株式会社」を抱える持株会社です。
今回、投資家向けのインフォメーションミーティングで発表されたのは、従業員の18%にあたる6,300人を2025年度(2026年3月末決算)までに削減するということです。これにより、人件費が200億円削減される見込みです。なお、6,300人目標のうち、2023年3月末までに1,900人を削減することを見込んでいます。
人員削減にあわせて「DX推進による要員効率化、成長領域への要員再配置」への取り組みを行うとのことです。
3大メガ損保が発表した2022年9月中間決算において、東京海上ホールディングスは大幅減益、MS&ADホールディングスとSOMPOホールディングス2社はいずれも大幅な赤字を計上しました。このことからすれば、台所事情が苦しいのはMS&ADホールディングスだけではないとみられ、他にも波及する可能性もあります。
背景には、損害保険業界、生命保険業界のそれぞれが危機的状況におかれているということがあります。
自然災害の増大で損保会社の経営が圧迫
損害保険業界においては、近年、特に火災保険の収支が著しく悪化しています。
日本損害保険協会「火災保険における保険金支払いと収支の状況等」において、2010年度~2019年度の火災保険の収支状況のデータが掲載されています。これによれば、2010年度と2015年度以外は、大幅な赤字となっています(【図表1】)。
なお、2020年についても、後述するように、2020年の火災保険の保険金支払額が甚大であることからすれば、大幅な赤字になるのは間違いありません。
ここまで火災保険の収支が悪化している原因は、近年、自然災害の頻発と激甚化により、保険金の支払いが急増しているからです。
【図表2】は、2010年~2021年の自然災害による火災保険の支払保険金額の推移を示したグラフです(2020年、2021年は参考値)。
これによると、2018年(7,079億円)と2019年(5,070億円)が突出し、2020年の2,196億円がそれに次ぐ数字となっています。
なお、2022年も9月の台風15号、10月の台風19号をはじめとして、火災保険の支払額が大きくなる見込みです。
このような実情のなか、火災保険の「参考純率」の引き上げが相次いで行われ、2022年10月に火災保険料の大幅値上げが行われたばかりです。
「参考準率」とは各損保会社が保険料を決める際の基準となる数字であり、「損害保険料率算出機構」が自然災害の発生確率等の様々な客観的データをもとに算出するものです。2009年度以降に4回の改定が行われましたが、うち3回は2018年以降に相次いで行われたものです(2018年6月15日、2019年10月30日、2021年6月16日)。
しかも、火災保険の契約期間も、従来は最長で10年まで可能だったものが、5年まで短縮されました。
これらのことから、5年後くらいまでのごく近い将来でさえ、自然災害の発生状況を予測することが困難をきわめているということが推察されます。