長男Tの妻Rが別件で乙を訪ねてきたとき、その話題になりました。「私も足がこんなだから、銀行に行くのは苦痛なのよ」と乙がいいます。「東京だと“凍結”の話はよく聞きますね。『名義』はほとんどがお父さんですか? それではお父さんに何かあると困っちゃいますね」とR。
その日は雑談で終わりましたが、家に戻ってTに話すと、夫は珍しく真剣な顔になりました。「俺も定年が近いし、予想もしないことでおやじたちの生活が破綻したら困るよ。AとBにも相談してみるか」。
幸い、T、R夫婦と姉弟の仲は良好なので、次の連休にAとBが実家に集まりました。3人一致したのは「確かにほっとくのはこわいね」でした。
A「それにしてもうちの(両親の)財産はどれくらいなのかしら」
T「聞いたことないなぁ。家まで含めれば1億円くらいはありそうだけど」。
話を始めても、子たちは肝心なことがまるでわかっていません。
ふつう、家族はそんなものですね。細かい経緯は省略して、結論的には「家族信託をおやじに説得しよう」と決まりました。父の甲は唐突な話に驚いた様子でしたが、元来、お金のことに無頓着な性格。サラリーマン時代は妻に小遣いを渡され、今もって甲の金銭感覚はそこにとどまっているので、乙が「それなら安心ね」というと、あっさり家族信託契約を結ぶことを了承しました。
甲「信託すると相続税が少しは節約になるのかね?」
Tたちは、『やはり相続税が発生するくらい財産があるんだ』と妙に納得したのですが……。
遺産1億2,000万円。石上家の相続税はいくら?
本筋と少し外れますが相続税について書いておきます。下が相続税の速算表です。遺産1億円、さて相続税はいくらか?
ほとんどの人が[1億2,000万円×0.4-1,700万円=3,100万円]と答えます。全然違う。相続税はそんなに高くはなりません。もっと合理的にできているんです。相続人は誰で人数は何人か、そこまで考えて作られています。配偶者は税額が軽減されます。同居親族には小規模宅地の特例。それに、生命保険には相続人1人当たり500万円の非課税枠があります。