サービス価格の上昇が安定的で持続的な物価上昇の条件
ここまで見てきたように、消費者物価上昇率が3%となるのは消費税率引き上げの影響を除けば約30年ぶりだが、当時と現在では物価上昇の中身が大きく異なる。約30年前は、輸入物価が下落する中でも国内要因によって財、サービスともに幅広い品目で価格が上昇していた。これに対し、現在は輸入物価の高騰を受けたコスト増を価格転嫁する形で財の価格が大幅に上昇する一方、サービス価格はほとんど上がっていない。
資源・穀物価格の上昇や円安の進行にはいずれ歯止めがかかり、原材料価格の上昇を価格転嫁する形での物価上昇は一段落する可能性が高い。そうした中でも物価上昇が持続するためにはサービス価格の上昇が条件となるが、サービス価格を決める重要な要素は人件費である。
実際、サービス価格と賃金の連動性は非常に高く、1990年代前半までは賃金とサービス価格が安定的に上昇していたが、1990年代後半以降は、賃金とサービス価格の低迷が長期にわたって継続している*4(図表10)。
欧米の消費者物価上昇率が日本を大きく上回っているのは、原材料価格高騰に伴う財価格の上昇に加え、賃金上昇を背景としてサービス価格も大きく上昇しているためである。その意味では、日本の賃金、サービス価格の低迷は急激なインフレを抑制する役割を果たしている面もある。
2022年の春闘賃上げ率は前年(1.86%)に比べ0.34ポイント改善し、2.20%(厚生労働省の民間主要企業春季賃上げ要求・妥結状況)となった。賃上げ率は4年ぶりに前年を上回ったが、1.7~1.8%程度とされる定期昇給を除いたベースアップはゼロ%台にとどまる。サービス価格が物価目標と同じ2%程度の伸びとなるためには、ベースアップが2%程度となることがひとつの目安と考えられるが、そこまでにはかなりの距離がある。原材料価格の上昇を価格転嫁する形での物価上昇はしばらく続きそうだが、賃上げを通じてサービス価格が上昇し、安定的で持続的な物価上昇が実現するまでには時間を要するだろう。
*4:2021、2022年のサービス価格は携帯電話通信料の大幅値下げにより押し下げられていることには留意が必要
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