消費者物価上昇率は約30年ぶりの3%
消費者物価(総合)は、エネルギーや食料の価格上昇を主因として、2022年8月に前年比3.0%となり、消費税率引き上げの影響を除くと1991年11月以来、30年9ヵ月ぶりの3%となった(図表1)。金融市場の注目度が高いコアCPI(生鮮食品を除く総合)は前年比2.8%だが、東京都区部の2022年9月中旬速報値の上昇率は前月から0.2ポイント拡大した(8月:前年比2.6%→9月:同2.8%)。このことを踏まえれば、全国のコアCPIも9月には消費税率引き上げの影響を除くと1991年8月以来、31年1ヵ月ぶりの3%となる可能性が高い。
消費者物価上昇率が3%となるのは約30年ぶりだが、その中身は30年前と現在で大きく異なる。ここでは、30年前と現在の経済環境を比較した上で、消費者物価の中身を様々な角度から見た上で、今後の動向を占う。
30年前と現在の経済環境の比較
まず、消費者物価上昇率(総合)が最後に3%台を記録した1991年の経済環境を振り返ると、1991年2月に景気はピークアウトしたものの、バブル景気の余熱が残っている時期で、経済活動の水準は引き続き高かった。潜在GDPと現実のGDPの乖離を示す「需給ギャップ」(ニッセイ基礎研究所推計)は、景気が後退局面入りする中でも、プラス圏を維持していた。一方、現在は、景気は拡張局面にあるものの、コロナ禍からの回復が緩やかなものにとどまっていることから、経済活動の水準は低く、需給ギャップはマイナス圏にある(図表2)。
労働市場については、30年前も現在も企業の人手不足感が強く、需給が引き締まった状態となっている。失業率は1991年(平均)の2.1%に対して、2022年(1~8月の平均)は2.6%と現在のほうが高いが、これは労働市場のミスマッチなどによって生じる構造失業率が当時よりも高くなっているためである。
実際の失業率と構造失業率の差を示す「需要不足失業率」(ニッセイ基礎研究所推計)は1991年の▲0.13%に対して、2022年は▲0.19%と現在のほうが需要不足の度合いが若干高い(図表3)。また、有効求人倍率は、1991年(平均)が1.40倍、2022年(1~8月の平均)が1.25倍と、ともに1倍を大きく上回っている。
消費者物価の動向に大きな影響を及ぼす原油、為替動向を比較すると、1991年は原油安、円高傾向となっていたのに対し、2022年は大幅な原油高、円安が進行している。この結果、1991年の輸入物価は前年比▲8.2%の下落、国内企業物価は同1.0%の低い伸びにとどまっていたのに対し、2022年(1~9月の平均)は輸入物価が前年比41.9%、国内企業物価が同9.4%といずれも高い伸びとなっている。
賃金上昇率は、1991年当時はベースアップが3~4%程度となっていたこともあり、名目で前年比4.4%の高い伸びとなっていた。このため、消費者物価上昇率が3%となっても、実質で同1.1%とプラスの伸びを確保していた。これに対し、2022年の名目賃金上昇率はコロナ禍からの回復を受けて、2021年に比べれば伸びは高まっているものの、1~8月の平均で前年比1.5%*1にとどまり、消費者物価の伸びを下回っている。この結果、実質賃金上昇率は2022年4月から5ヵ月連続でマイナスとなっている(図表4)。
*1:毎月勤労統計は、2022年1月にサンプル入れ替えとベンチマーク更新が同時に実施された。賃金上昇率は断層委調整を行わずに計算するため、2022年1月以降の前年比は0.4ポイント過大となっている。
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