日本人に植え付けられた極端な軍事嫌い
■極端な軍事アレルギーが日本の国力を低下させている
日本の相対的な国力が右肩下がりになっている理由のひとつに極端な軍事アレルギーがある。
大国間競争を展開している米中ロには共通点がある。米中ロは力(パワー)を信奉する国であり、「国際政治における本質が『力の均衡(Balance of Power)』や『脅威の均衡(Balance of Threat)』にある」ことを理解している。
力を構成する要素は、人口、経済力、軍事力、科学技術力、教育力など多々あるが、彼らが信奉する究極のパワーは軍事力、とくに核戦力だ。そのため、いまでも核戦力の性能向上を重視している。
この点で日本が「核をもたず、作らず、もちこませず」という非核三原則を採用し、これを国是としている状況とは180度違う。
筆者は、米国とドイツで勤務した経験があるが、両国ともに日本のような軍事に対する拒絶反応はないし、国民の間に軍隊や軍人に対する理解や敬意が存在することを実感した。
米中ロや他の先進諸国では、安全保障や軍事を抜きにして国際政治、外交、経済、科学技術などを語ることができないことは常識だ。じつは、『超限戦』に書かれている内容の大部分は(ただ一点を除いて)突飛なことではなく、先進主要国では常識的な考え方、世界標準の発想だと思う。
ところが日本では、軍事に対する極端なアレルギー反応を示す人たちがあらゆる分野にいる。例えば、宇宙の軍事利用やAIの軍事利用に対する反対論者が政治・経済・中央省庁・アカデミア・マスメディアなどに相当数いる。読者は驚くかもしれないが、宇宙開発、AI開発、サイバーセキュリティの分野でも防衛省・自衛隊を排除しようとする動きがある。
日本人の軍事に対するアレルギーは、先の大戦の敗戦の結果であり、それを助長し確実なものにしたのは、GHQ(連合国軍最高司令官総司令部)の「戦争についての罪悪感を日本人の心に植え付けるための宣伝計画」である「ウォー・ギルト・インフォメーション・プログラム(WGIP:War Guilt Information Program、直訳すると「戦争責任情報計画」)である。
またGHQは、日本の軍事力を徹底的に排除する狙いで一連の民主化改革をおこなった。主要な改革は以下の通り。
①軍国主義の排除のために、軍隊の武装解除、特高警察(秘密警察)の廃止、治安維持法廃止を実施、②憲法改正、③財閥解体、④労働組合の育成、⑤民主的な戦後教育による戦争への反省と罪悪感の植え付け、⑤言論および報道の自由付与。
以上の改革を全面的に否定するわけではないが、この改革によって日本は確実に弱い国家になっていった。なぜなら、軍隊が解体され、それに付随して外国のスパイを取り締まる法的根拠や組織を失ったからである。
GHQの日本統治の核心には、日本の安全保障における自立は絶対許さないという原則と、日本国憲法を絶対に順守させるという原則があった。とくに日本国憲法は、日本をまともな国家になることを妨げてきた。
現行憲法が強調する個人の自由と権利の重視、責任と義務の軽視、公的なるものと国家的なるものの無視――このような態度こそが日本を劣化させてきたのだ。現憲法がマッカーサーの命令で作られたのは事実だ。とくに第九条は「マッカーサー三原則」(①天皇制は存続させるが国民主権に基礎づかせること、②戦争放棄、③封建制の廃止)の戦争放棄の原則が下敷きになっている。
いずれにしろ、先の大戦の敗戦以降に日本人に植え付けられた極端な軍事嫌いから脱却しなければ、強靱な日本の建設は不可能だ。
渡部 悦和
前・富士通システム統合研究所安全保障研究所長
元ハーバード大学アジアセンター・シニアフェロー
元陸上自衛隊東部方面総監
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