国力低下の原因は明確な国家戦略がなかった
●修正方程式
国際政治学者のジョセフ・ナイは、パワーをハードパワーとソフトパワーに区分し、軽視されがちなソフトパワーの重要性を強調した。
ハードパワーの根幹は経済力と軍事力で、「強靱さ」のなかの強さを象徴する。ソフトパワーは「強靱さ」のなかの「しなやかさ」を象徴する。ナイが唱えたソフトパワーは、文化、政治的価値観、政策の魅力だが、教育、科学技術などもソフトパワーだ。
ナイのソフトパワーの議論を加味してクラインの国力の方程式を修正し、渡部の方程式を提示すると以下のようになる。
国力=(人口+領土+経済力+軍事力+政治力+科学技術+教育+文化)×(国家戦略目標+国家意思)
政治力には国内政治力と外交を中心とした対外政治力があるが、ナイが提示する文化、政治的価値観、政策の魅力はこの政治力の一部である。
日本の国力を低下させたいと望む勢力は、この方程式の各要素をターゲットにして工作を実施している。
■日本の国力は右肩下がりだ
日本の国力は右肩下がりである。世界先進諸国との比較においてもその相対的地位は低下し続けている。人口は減少し、かつて世界第二位だったGDPはいまや中国に抜かれて第三位になり、やがてインドにも抜かれて第四位になるであろう。多くの分野で世界トップクラスだった科学技術力も地盤沈下が激しい状況だ。
なぜ、国力が低下しているのか。人口の減少、中国などの台頭による競争の激化、経済政策の失敗など様々な理由があるだろう。
しかし、日本に明確な国家戦略がなかったことがもっとも重要な理由だと思う。国家戦略は、国家の将来像を描き、それを実現する方策を示すものだ。国家戦略に盛りこむべき要素として国益と脅威認識は不可欠だ。
世界の国々のなかで米国の戦略は参考になる。私は1987年から2年間、外務省に出向し、米国の国家安全保障戦略、国家防衛戦略、国家軍事戦略などを分析していたが、その戦略の最初に記述されているのが「国益」である。安全保障においては、国益を守ることが中核のテーマだ。いずれにしろ国家戦略は政治の責任分野だ。
■日本の若者の内向き志向は日本の将来にとってマイナス
気になるのが、日本が高齢化するなかにおける若者の活力低下だ。私が注目する指標は、米国の大学に留学する若者の数だ。2017年のデータで、①中国約33万人、②インド約16・6万人、③サウジアラビア約6・12万人、④韓国約6・10万人、⑥ベトナム2・14万人、⑦台湾2・11万人、⑨日本1・9万人の順だ。
中国は断トツの33万人で日本の約17倍であり、人口比(約11倍)以上に中国の留学生が多いことがわかる。日本はアジアの韓国、ベトナム、台湾にも負けていて、日本の若者の内向き志向が気になる。
米国への留学生(とくに理数系)は、世界最高水準の教育を受けることができる。彼らは大学卒業後に米国のGAFAM(グーグル、アップル、フェイスブック、アマゾン、マイクロソフト)をはじめとする米国経済を牽引する企業に就職をし、有為な人材として成長していく。彼らのなかには、やがてそれぞれの母国に帰り、新たな企業を起こして国の経済発展に貢献する者もいるであろう。とくにAI、量子技術、バイオ技術などの最先端技術を学ぶなら米国留学は非常にいい手段になる。
停滞する日本人留学生の問題は、日本の将来の停滞を予感させるが、どうであろうか。