中国のGDPはは世界2位の17兆4580億ドル
2021年の名目GDP(国内総生産)で、中国は米国に次ぐ世界2位の17兆4580億ドルの規模を誇っています。ちなみにロシアは1兆7755億ドルで世界11位、中国の約10分の1です。
それほど巨大な中国経済ですが、その通貨金融システムは準ドル本位制です。中央銀行である中国人民銀行は流入するドルに応じて人民元資金を発行します。人民元の対ドル相場は前日の終値を基準レートとし、当日の変動幅は基準レートの上下2パーセントとするように、人民銀行が外為市場に介入するのです。
しかもこの基準レートは場合によっては前日終値とは無関係に大きく切り下げも切り上げも可能なのです。そんないいとこどりが中国の準ドル本位制です。
日本の場合も「米国の従属国」とよく言われますが、それは戦力の放棄を謳う憲法第9条のために水際での防衛に限定され、有事の際は日米安全保障条約に基づく米国の助けに頼るしかないことが背景にあります。
もちろん日本は紛れもない主権国家ですが、1970年代の日米繊維交渉、1980年代の自動車の対米輸出自主規制、円高誘導のためのプラザ合意、日米半導体協定などのように、理不尽な米国側の対日要求に対して、一方的に日本側が譲歩したケースは数え切れないほどです。
その根底には「通商問題を政治問題化しない」という政府の一貫した姿勢があります。政治問題化というのは、米国が日本に不信感をもち、同盟関係にヒビがはいることなのです。
では、通貨はどうか。日本の円はフリーフロート、つまり変動相場制であり、ドルに対して自由に変動します。中国のように、ドル資金が入らないと中央銀行の資金発行に支障を来すなんてバカなことはありません。巨額の外貨準備(外準)を維持するために、輸出を奨励して大幅な貿易黒字を続けることはもちろん、外国からの投資や借り入れを増やして外準に繰り入れる必要もありません。
当然のことながら、変動相場制であれば通貨や金融の対米自立は確保されます。とはいえ、ドルに対する自国通貨の安定はどの国にとっても死活的な事項です。ドル建てで貿易や投資を行う日本企業は変動相場制の影響を受けます。急激な円安、あるいは円高が進行するようだと、輸出入、国内生産や海外生産の戦略を立てにくくなります。
たとえば、円安は国内生産を有利にしますが、変動相場制であるかぎり、円安が持続する保証はありません。円安が続いていても、ある日、一転して円高に転じるようなことがあれば、国内生産は一挙に不利になるので、国内投資には慎重にならざるを得ません。
日本の通貨当局(財務省)がドル売り、またはドル買い介入を行うケースは滅多にありません。財務省が日銀を通じて市場介入する場合の前提は米財務省の了解です。よほどのことがないかぎり米側が首を縦に振ることはありません。
日本の当局によるドル売りの場合、ドルの価値が外国によって下げられることになり、それ自体米側は嫌がります。
しかもその場合、日本政府が保有する米国債を大量に売却するのですから、二重の意味で米側の反発を買いかねない。日米安全保障条約によって安全保障を米国に頼っている日本は米国に遠慮せざるを得ないのです。
逆に、円高是正のために、ドル買い介入を行う場合でも、米側の了解が欠かせません。ドル買い介入でもドルや米国債相場を人為的に動かすことに変わりはないからです。しかも日本のドル買い介入によってドル高になれば、米輸出産業が反発し、議会も対日批判を始めかねないのです。
唯一の例外は、小泉純一郎政権当時、2003年〜2004年のドル買い、円売り介入です。米国のブッシュ政権は反テロを名目にしたサダム・フセイン討伐のイラク戦争への日本側の協力と引き換えに事実上、ドル買い介入に同意したのです。
中国の経済は国際貿易と外国企業による直接投資や海外投資家による証券投資が主要な部分を占めているため、ドルなしでは回らない体制になっています。ロシアに協力して米国から二次制裁、即ち金融制裁を受けることにでもなれば、たちまちドルが不足して輸出入に支障を来し、中国経済は大ダメージを受けることになります。米国による二次制裁への恐れがあるため、中国も簡単にはロシア支援に回れないのです。
田村 秀男
産経新聞特別記者、編集委員兼論説委員
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