(※写真はイメージです/PIXTA)

財務省主導で政府がひたすら民間の所得を吸い上げて国債の返済に回すのは亡国の道です。緊縮財政と増税を続けると国民経済は疲弊し、国力は衰退してしまうでしょう。日本経済の分岐点に幾度も立ち会った経済記者が著書『「経済成長」とは何か?日本人の給料が25年上がらない理由』(ワニブックスPLUS新書)で解説します。

国債発行は日本の安全保障そのもの

国債の信用問題に話を戻しますと、大事なポイントは「国債のデフォルトというのは、あくまでも金融市場の現象である」ことです。それは「考えられない」どころか、現実には起きないのです。

 

繰り返しますが、黒田氏はかつての抗議書簡で「日本は世界最大の貯蓄超過国であり、国債はほとんど国内で、しかも極めて低金利で安定的に消化されている」と述べています。

 

まさにその通り、市場が十二分に国債を買い上げるだけのゆとりがあることを示しています。それは市場データを見ればもっともなことです。

 

例えば、日銀統計によれば、中央政府、地方政府に年金基金を含めた一般政府の負債残高は2021年3月末で1402兆円に上りますが。家計の金融資産は1968兆円、企業のそれは1230兆円に上ります。つまり民間は政府の負債を楽々と受け止め、しかも海外の対日負債1197兆円も引き受けています。

 

国債相場が超安定しているうえに、日銀が国債を買い上げるのですから、国債金利がマイナスになるわけです。その背景になるのが「世界最大の貯蓄超過国」即ち世界最大のカネ余り国ということです。

 

そんな市場環境だと国債償還を急ぐ理由はありません。政府は借り換え国債を発行し、国債の償還期限が来れば、同額の国債を新規発行し、返済を事実上先送りすればよいのです。

 

一方、そんな恵まれた市場環境は未来永劫に続くはずはないとの反論があるでしょう。

 

経済がデフレから脱却し、インフレ率が適正水準で推移し、経済成長率が名目で3%ということにでもなれば、インフレ率に沿って国債金利も上がります。インフレ率より低い金利の国債には買い手がつかなくなるからですが、それで国債の信用が減衰することはありえません。

 

なぜなら、経済活動が正常化し、家計所得は増えて消費が活発化し、企業収益は拡大するので、税収が大幅に増えて、財政収支が大幅に好転するからです。国債は究極的には税収によって元利が支払われるのですから、国債の信用は安定するのです。もし税収の伸びが不安定であれば、日銀が国債買いに出動すれば済むのです。

 

世界最大の貯蓄超過国日本が貯蓄不足国、即ち債務国に転落する可能性だってあるじゃないか、との極端な議論もあるでしょう。「まったくない」とはもちろん言いませんが、それは先述したように巨大隕石の衝突や第二次世界大戦のような戦災で供給能力が広い範囲で破壊されるなどの特殊なケースです。

 

そんなリスクに恐れをなして、政府がひたすら民間の所得を吸い上げて国債の返済に回すのはじつに亡国の道です。緊縮財政と増税を続けると国民経済は疲弊し、国力は衰退してしまうでしょう。こちらのリスクのほうがはるかに高く、実際に25年以上もの間、経済規模は萎縮し、税収は減り、財政赤字は膨らんでいるのです。

 

このままだと日本の美しい国土も優れた技術を持つ中小企業もことごとく中国資本などに買い叩かれ、一発の砲弾もなしに日本は外国勢力に占領されてしまうでしょう。

 

繰り返しますが、金融市場は極めて合理的に出来ています。デフレ局面では政府がゼロ金利またはマイナス金利で余ったお金を調達し、財政支出を増やすことが理に適うのです。

 

しかも、増発される国債はその場合、家計など民間サイドの資産を増やし、金融市場を栄えさせる原動力になるのです。国債発行は謂わば、日本の安全保障そのものです。

 

田村 秀男
産経新聞特別記者、編集委員兼論説委員

 

 

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本連載は田村秀男氏の著書『「経済成長」とは何か?日本人の給料が25年上がらない理由』(ワニブックスPLUS新書)の一部を抜粋し、再編集したものです。

「経済成長」とは何か?日本人の給料が25年上がらない理由

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