2―企業が配慮すべき人権課題
企業が尊重すべき人権課題は、多岐に渡る。例えば、主な課題としては「賃金の不足・未払」「過剰・不当な労働時間」「外国人労働者の権利」「児童労働」「サプライチェーン上の人権問題」など、労働関連のリスクが挙げられるほか、「結社の自由」「プライバシーの権利」「表現の自由」などの個人の心情や尊厳に関する問題も対象となる(図表2)。
また、法令遵守と人権尊重責任が、必ずしも一致していないことには注意する必要がある。人権尊重が求められる領域は、すでに法的に遵守が義務となっている領域外にも広がっている。企業は、特定の法域におけるスコープに留まらず、国際的に求められる人権尊重の範囲を最大限に確保し、潜在的なリスクにも目を向ける必要がある。
人権尊重の必要性は、すでに多くの日本企業に共有され、改善に向けた取組みは始まっているが、企業が国際社会から求められる水準は、ますます高まる方向にある。
3―人権法の導入で先行する欧米諸国
企業活動における人権擁護の取組みは、普遍的価値として人権を強調する、欧米を中心に進んでいる。とりわけ欧米では、人権DDを法制化する動きが顕著だ(図表3)。
例えば、1930年に関税法を制定した米国では、強制労働・児童労働等により製造された産品の輸入を差し止めることができる。また、他国に先駆け2013年に国別行動計画(National Action Plan on Business and Human Rights、以下NAP*1)を公表した英国では、2015年に「現代奴隷法」が制定されている。この法律は、一定規模以上の企業に対して、サプライチェーン上の人権侵害リスクを特定し、その防止に係る措置について公表することを企業に義務付けたものだ。
また、2017年にNAPを策定したフランスも、同年「注意義務法」を制定し、一定規模以上の企業に対して、人権や環境に対する悪影響を特定し、予防・是正措置を講じるよう義務づけている。さらに欧州では、人権DDや環境DDを義務付ける「デュー・デリジェンス指令」(案)が公表され、法制化に向けた検討も進められている。同指令がブリックコメントを経て法制化されれば、加盟国は2年のうちに国内法への置き換えを済ませ、順次施行していくことになる。
*1:NAPは、国連の指導原則に基づいて、国家が人権保護の義務を果たすために、各国で策定が推奨されている政策文章。国がどのような行動を取るかを明確化し、企業等の取組みを支援・促進するかを記述する。文章自体に法的拘束力はないものの、指導原則を承認した国は実施に関する国際法上の義務を負うことから、法制化が検討される流れにある。