戦争と経済の関係はGDPを理解すればお金の流れが見えてくる

戦争と経済にはどんな関係があるのか①

戦争と経済の関係はGDPを理解すればお金の流れが見えてくる
(※写真はイメージです/PIXTA)

戦争と経済の関係を体系的に理解するためには、経済がどのような仕組みで回っているのかを知る必要があります。もっとも基本となるのは、GDP(国内総生産)ということになるでしょう。GDPは経済規模をもっとも的確に表す指標です。経済評論家の加谷珪一氏が著書『戦争の値段 教養として身につけておきたい戦争と経済の本質』(祥伝社黄金文庫)で解説します。

GDPを増やすことは実はそう簡単ではない

■人口増加と資本蓄積、イノベーションのバランスが重要

 

GDPの定義を考えると、たくさんのモノやサービスを生産して、たくさん消費すれば経済規模は大きくなります。経済規模が大きくなれば、より多くの兵器を生産したり購入したりすることができますから、軍事的にも優位に立つことができます。

 

このように書くと非常に単純な話に思えますが、GDPを増やすことは、実はそう容易なことではありません。

 

数式上は、消費、投資、政府支出を足したものがGDPということになりますから、消費を増やせばGDPが増える、もしくは投資を増やせばGDPが増えるというメカニズムが常に成立すると思われがちです。

 

しかし、この数式は恒等式と呼ばれるもので、どのような時にもこれが成立するということがわかっているだけです。CとIとG、つまり個人消費と設備投資、政府支出の相互関係がどうなっているのかまでは説明されていません。

 

景気を拡大させようと思って政府支出Gを増やしても、何らかの影響で個人消費Cが減ってしまったり、設備投資Iが減ってしまうということがあり得ます。消費の拡大が投資を誘発し、それがさらに景気を拡大させ、税収の増加から政府支出も増えるという、正のスパイラルが働くことが望ましいのですが、実現するのは思ったほど簡単ではないのです。

 

こうした正のスパイラルを生み出すためのヒントになりそうなのが、消費と投資のバランスです。

 

消費Cと投資Iは、お金を使うという点ではまったく同じですが、その本質的な意味は大きく異なっています。消費は読んで字のごとく、単にモノやサービスを消費しただけということになりますが、投資はそうではありません。

 

投資によって購入した製造設備や施設は、将来にわたって利益を生み出してくれることになります。つまり投資は今年のGDPの数字にも貢献していますが、将来のGDPを生み出す原資にもなっているわけです。消費と投資のよいバランスがうまく作り出されると、経済は順調に回り始めます。

 

一般的に経済が成長するためには、3つの要素が必要だといわれています。

 

1つは労働力人口、もう1つは資本の蓄積、最後がイノベーションです。

 

労働力人口が増えれば、当然、生産力が高まります。生産に従事する労働者は消費者でもありますから、消費も増えていくことになります。需要が増えることがわかっていれば、企業は積極的に先行投資しますから、投資も拡大するでしょう。

 

このようにして、人口が増えている国は有利に経済運営を進めることができます。

 

■人口が減っていてもイノベーションがあればカバーできる

 

では、人口が増えていればそれでよいのかというとそう単純な話ではありません。先ほど将来のGDPを増やすには適切な水準の投資が必要と説明しましたが、投資を行うためには資金が必要となります。

 

GDPは1年間に生み出された付加価値を表したものであり、これは「フロー」と呼ばれます。一方、毎年、生み出された付加価値の一部は貯蓄され、資本という形で蓄積されていきます。これが投資の原資となるわけです。

 

資本の蓄積がないと、外国などから資本を調達する必要が出てくるため、資本に対する対価(利子や配当)が必要となり、効率が悪くなります。同じ投資を実施するのであれば、厚い資本蓄積がある方が有利です。

 

同じ水準の人口増加と資本蓄積があっても、経済成長が同じになるとは限りません。この違いをもたらしているのがイノベーションです。

 

イノベーションに優れている国では、同じ人口や資本を使って、効率よく経済を拡大させることが可能となります。その多くは、先行投資によって生み出されていますから、投資Iとの関連性が高いということになります。つまり高い経済成長を実現できる国は、イノベーションを誘発する投資を積極的に行っていると解釈してよいでしょう。

 

さらにいえば、先進国になればなるほど、イノベーションにおける知財の役割が大きくなってきます。知財は人への投資ということになりますから、柔軟な人材育成が実現できているのかが重要となります。

 

先進国は消費の割合が高いと述べましたが、実際には人材という別な形で投資を継続しているといい換えることも可能です。

 

消費活動が活発で、新しい技術やサービスが次々に登場する国はイノベーションも活発になり、結果的に高い経済成長を実現できるわけです。

 

加谷 珪一
経済評論家

 

 

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本連載は加谷珪一氏の著書『戦争の値段 教養として身につけておきたい戦争と経済の本質』((祥伝社黄金文庫)より一部を抜粋し、再編集したものです。基本的に書籍が出版された2016年当時の記述となっており、各種統計の数字は2016年時点のものです。国際情勢が変化し、追記が必要な部分については、著者注として補足しています。

戦争の値段――教養として身につけておきたい戦争と経済の本質

戦争の値段――教養として身につけておきたい戦争と経済の本質

加谷 珪一

祥伝社

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