あっという間に売り越しが3,000トンに…究極のピンチ
少し商売に自信が出てきた私はある日一部のお客さんが買い意向を示したのでさっさといくつかの売り取引を成約しました。その結果あっという間に売り越しが3,000トンに達してしまったのです。
私は産地の方はまだ上げ相場の兆しが出ていなかったので南米の一つの原料メーカーからとりあえず1,000トンを買い、その結果売り越しのポジションが2,000トンに減ったので少しほっとして帰宅しました。
ところが翌日その原料メーカーからテレックスが入っており、「昨日は在庫のバランスを勘違いしていたのであの話はなかったことにしてくれ」と言ってきました。私は昨日売りを確認しあったテレックスのやり取りを提示して、契約は成立していると言い張りましたが、相手は知らぬ存ぜぬで逃げ、そのうちなんの返事もくれなくなりました。
後で別ルートで聞きましたが、その業者の社長はかなりトリッキーな人物でよくこのようなトラブルを起こしていたそうです。私との1,000トンの取引締結後何かの情報で相場が上がり始めると察知し、取引を無効にして後で高く売ろうとしたのだと思います。
さて、私がこのトラブルで2日程すったもんだしている間に日本の大手配合飼料メーカーが相場が上がると見て買いに入るとの情報が入ってきました。正直大ピンチです。既に現地の原料メーカーの一部も相場が反転して上がる兆しを感じているかもしれないからです。
私は大損するという恐怖感を必死に押さえながら、他の何社かの原料メーカーに細かく刻んで300~400トンずつの買い注文を入れました。一回に大きな注文を入れると相手が身構えて値段を上げてくるかもしれないからです。
幸い5~6社から数回に分けてどうにか利益がでる価格で購入を果たし、私の売り越し数量はゼロに近づいていきました。最後の500トンは売値よりも高い価格で購入し損が出ましたが、3,000トン全体ではそこそこの利益が出ました。
30年たった今でも思い出しますが、買いが完了した日は確か土曜日だったと記憶していますが、昼下がりのがらんとしたオフィスで味わった安堵感は今でも忘れられません。
こうして私はまだ若造の時に究極の実践トレーニングでこの情報収集のノウハウを体得させて頂きました。私の失敗の責任を引き受ける覚悟でそういう実践の場を与え、指導してくれた当時の上司の皆さんの度量の広さには感謝しかありません。一生の宝を授けて頂いたと思っています。
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松永 隆
1983年 一橋大学法学部卒業。
住友商事㈱に20年間勤務。中国、米国、カナダにて海外勤務を経験。
帰国後、夢であったサッカー界に転職することを決意。
2004年 公益財団法人日本サッカー協会(JFA)に入局。以後国際部部長、国際部担当部長として勤務。
2020年 退職後もJFA国際部コンサルタントとしてサッカー界に関わり続ける。
2021年 広島経済大学 経営学部スポーツ経営学科教授
JFA公認C級ライセンスコーチ、合気道初段。