売るに売れない金銭事情
後藤さんは当初、東京都世田谷区の人気物件だから売却すれば問題はすぐ決着するだろうと楽観視していました。購入時の販売会社も「売るときにはきっと買った以上の高値で売れますよ」を売り文句の一つとしていたくらいです。
不動産エージェントのもとへ駆け込む前に、後藤さんはいくつかの不動産会社に査定を依頼していました。ところが査定価格は1,900万円と衝撃の金額だったのです。
購入時のローンがまだ2,300万円ほど残っていたのですが、購入時の価格どころかローン残債より400万円も低い価格をつけられてしまいました。ローンを完済したいのであれば、不動産を売却し、さらに不足分の400万円をどうにか捻出しなければなりません。本件を担当したエージェントCは、後藤さんの落胆している様子を見て、少しでも高く売れるようなアドバイスができないかと思案しました。
しかし本物件はエージェントCの頭を非常に悩ます一件でした。
今回は投資目的のワンルームマンション、収益物件です。買い手候補も当然、収益物件としての価値を見極めてから購入を検討する投資家になります。となると、不動産の売却価格を決定づけるのは家賃になるわけです。売却方法にいくら工夫を凝らしても、家賃が据え置きのままでは、売却価格を引き上げるのは厳しい状況でした。
不動産エージェント独自の経験やネットワークを活かしたとして、どんなに頑張っても1,950万円程度というのが、最初の段階での見積もりでした。
他社と50万円程度の差しかつけることができません。このことを正直に伝えると、後藤さんからため息交じりに債務整理を検討していると明かされました。
マンション投資に失敗した個人投資家が債務整理するケースは珍しくありません。実のところ高収入世帯ほどその結末を招きやすいのです。高収入であるがゆえにローンが通りやすく、複数の収益物件を取得した挙句、後藤さんのような赤字物件を多数抱える事態になってしまうのです。
債務整理によって債務の減額や返済義務の免除など、いくつか恩恵は受けられるものの、一定期間は新しくローンが組めなくなるといった制約も生じることになります。後藤さんにとって債務整理は心身への負担が軽くなる即効性は見込めるものの、これからのライフステージを考慮すると得策ではありません。
利益を生む商品だと思っていたものが実は赤字を生むものだった、しかも金銭的な事情で売れないという窮状です。そのショックと後悔の大きさは計り知れません。まさに藁をもつかむ思いでの、不動産エージェントへの相談だったのでしょうが、即興で画期的な解決案を出すことができませんでした。なんとか1,950万円を上回る価格で売れる方法はないか、エージェントCの模索する日々が始まりました。
大西 倫加
さくら事務所 代表取締役社長
らくだ不動産株式会社 代表取締役社長
だいち災害リスク研究所 副所長
長嶋 修
さくら事務所 会長
らくだ不動産株式会社 会長