アベノミクスを消費税増税と緊縮財政に変えた
話を元に戻しますと、政府は円の金融市場を利用して、借金(国債発行)して、それだけのキャッシュを手に入れるわけです。そしてそのお金で政府が財政出動して実需を創出していけばいいのです。
要するにインフラ投資をやったり、防衛整備をやったり……それから教育、基礎研究とか、バイオテクノロジーや宇宙航空などに投資してもいい。半導体もほんとうは国家が補助金を出して、政府主導で開発してもいいくらいです。
ここでキモになるのは、新規開発であることです。これは可能性のある分野にお金をつぎ込むのですから、すべて投資なのです。将来高い収益を民間にもたらす分野、あるいは経済を支えていくような分野を伸ばしていくということで、国外に出ていたお金が国内に還流し、回るようになります。
ただ、効果がすぐに出るとは限りません。だから何年も何年も辛抱強くやるしかありません。
ところが日本の場合は、アベノミクスで初年度だけちょっとやって、状況が好転しそうになったらすぐに消費税の増税をしてしまいました。これではまったく意味がありません。
消費税が増えたら需要が減る、需要が減ったら景気が減退する。民間が需要創出に臆病なら、政府がその役割を引き受けるというのが自明の理ですが、そんな常識が日本のエリート官僚には通用しない。加えて政治とメディア、御用学者がそれに乗っかるのです。
■アベノミクス、成功しかけたのに……
すぐに消費税の増税に踏み切ったのには、旧来からある財政健全化(歳入と歳出の差である財政収支を改善し、国債などの借金を削減すること)への強迫観念からでしょう。
アベノミクスといえば「異次元金融緩和」「機動的財政出動」「規制改革による成長戦略」の三本の矢ですが、政府は日銀が量的に金融緩和してお金の量を増やせばデフレマインドを払拭できると考え、金融偏重です。財政のほうは「機動的」という言葉が示唆するように、一時的な財政支出で十分という財務省の思惑に沿っています。
そして財政出動は当初だけで、2014年度は一転して消費税増税と緊縮財政に切り替えてしまった。財政出動は借金を増やすのだから控え、消費税増税で家計に課税強化し、税収を増やすべきだという方向にシフトしてしまいました。「財政は引き締め、借金も返さないといけない」というお念仏です。景気が順調に拡大し、インフレ圧力が高いという正常に経済が回っている状態ならまだわかりますが、デフレのときには最悪の政策です。
結局たった1年でデフレ不況に戻ってしまいました。私に言わせると、アベノミクス初年度をあと3年でも4年でも継続的にやっていれば、だんだん内需が持ち上がって、デフレから脱出しはじめ、景気は回復したはずです。
もうひとつの問題があります。アベノミクスが初年度、成功しかけた理由は、円安効果です。アメリカや中国など海外市場主体ですが、輸出がかなり良くなってきていました。
それで企業はようやく設備投資をやろうとしました。日本国内から人を雇ったり、国内に新しく工場をつくったりしてみようかと。そのように企業がやっと前向きになりはじめたときに、消費税の増税と財政支出削減です。それは民間のお金を奪って、国債の償還に回すということで、国内需要を蒸発させることなのです。わざわざ自分で自分の足を引っ張っている。
このとき、私は『産経新聞』などいろいろな媒体でさんざん反対しましたが、このことをきちんと理解している人がほとんどいなかった。ほんとうに不思議な国だと思います。経済学者の主流というか、多数派の学者が皆「消費税の増税をやらなきゃいけない」の大合唱になっていたわけです。
しかもこのとき、消費税の増税だけでなく、緊縮財政によって国債の償還までやってしまった。経済理論や財政理論から見てもわかりそうなものですが、仮に増税しても、その税収をそっくり全額、政府の投資によって再度実体経済、民間経済のほうに戻してあげれば、お金がまた回ります。こうすれば家計の増税ショックは残りますが、増税に伴う経済の緊縮効果は相当減殺されるのです。
あるいは借金、つまり国債を発行して政府投資を増やしていけば、消費税増税分のインパクトは軽く済む可能性があります。でも実際は国債発行どころか逆に償還してしまいました。
最悪だったのは先述した「消費税の増税プラス緊縮財政」をやってしまったことです。
田村 秀男
産経新聞特別記者、編集委員兼論説委員
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