ロシアへの接近はよい結果をもたらさない
■ベネズエラの独裁政権は瓦解寸前に
ロシアと共に、原油価格下落の影響を大きく受けたのが、反米を掲げ、社会主義的な政策を強引に推し進めてきた南米ベネズエラです。2015年12月に行われた総選挙では、中道右派の野党連合民主統一会議が3分の2の議席を獲得し、大勝利を収めました。
同国では1998年、経済悪化などによる政治不信を背景に、軍人出身のチャベス氏が大統領に当選、企業の国有化など社会主義的な政策を推し進めてきました。外交的には「反米」を掲げ、キューバやロシア、中国に接近。チャベス氏は自らの政策を、南米諸国における独立運動の指導者であるシモン・ボリバル氏にちなんで「ボリバル革命」と呼んでいます。
一方、チャベス政権は民主主義者など野党勢力に対しては徹底的な弾圧を加えており、野党指導者であるロペス氏は身柄を拘束されていました。チャベス氏は2013年にがんで死去しましたが、バス運転手出身の副大統領マドゥロ氏が大統領に就任、チャベス路線を継承してきました。
まさに米国にとっては目の上のたんこぶということになりますが、反米的な非民主国家であるベネズエラがこのような路線を継続できた背景には、原油の高騰があります。
ベネズエラは輸出の95%以上を石油が占めるという完全な石油依存型経済となっています。原油価格の高騰で同国の財政は潤い、低所得者向けにバラマキ政策を継続したことで、チャベス路線に対する高い支持が続いてきました。
この風向きが変わるきっかけとなったのが、2014年から始まった原油価格の下落というわけです。原油価格の下落は、国家収入のほとんどを原油に頼るベネズエラ経済を直撃しました。もともとベネズエラには目立った産業がなく、20%台の高いインフレ率が続いていましたが、原油価格の下落によってインフレが加速、2014年のインフレ率は40%に上昇し、2015年にはとうとう200%に達したともいわれています。
米国は以前から公然と反米を掲げるベネズエラへの対応に苦慮していましたが、原油価格の下落によって、独裁政権は事実上崩壊してしまいました。こちらも米国にとっては、非常に好都合な結果です。
■日本がロシアに近づいてもよい結果をもたらさない
こうしたロシアの苦境を背景に、日本国内にはロシアと接近し、より有利な条件でエネルギーを輸入すると同時に、北方領土問題を解決しようという動きが見られます。
しかし、一連の原油価格をめぐる動きが経済的なものだけにとどまらず、地政学的な意味を含んでいるのだとしたら、安易なロシアへの接近はよい結果をもたらさないでしょう(注:ロシアとの接近は危険であるという指摘は、同国のウクライナ侵攻で現実のものとなりました)。
石油はしばらくの間、供給過剰が続くことになりますから、米国も積極的に日本にエネルギーを輸出しようとしています。これまで日本は中東からの原油に依存し過ぎており、調達ルートが限定的という問題を抱えていました。調達ルートの多様化という点では、最大の同盟国である米国という選択肢がありますから、あえてロシアを選択する必然性は高くありません。
またロシアは、有利な条件でのエネルギー供給と引き換えに日本からの資金提供を望んでいるはずです。また、ロシアの本音は、北方領土の4島一括返還ではなく、部分返還だともいわれています。
もしエネルギー供給でロシアが好条件を提示する代わりに、領土問題で日本が譲歩するような結果になった場合、必ずしも日本にとってメリットのある取引にはならない可能性があります。
さらにいえば、日本のエネルギー供給源の一部をロシアに握られてしまうことで、日米関係にも影響が出てくる可能性があります。いずれロシアは、エネルギー政策を通じて、米国と日本を分断しようと試みる可能性が高いでしょう。
日米交渉を有利に進めるためロシアを材料にするというのは、外交テクニックとしては有益かもしれませんが、あくまでそれは有利な条件を引き出すための手段にすぎません。その範疇を超えてロシアとの関係を深めることは、日米関係にあまりよい結果をもたらさないでしょう。
加谷 珪一
経済評論家
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