クリミア戦争でロシアの戦費調達を支援した英国の驚きの行動

世界から見た戦争とお金④

クリミア戦争でロシアの戦費調達を支援した英国の驚きの行動
(※写真はイメージです/PIXTA)

かつてロシアは自国でクリミア戦争の戦費を調達できず、英国の金融街シティで調達せざるを得ませんでした。そもそも敵国である英国が、ロシアの戦費調達を助ける合理的な理由がありません。英国がとった驚きの行動は。経済評論家の加谷珪一氏が著書『戦争の値段 教養として身につけておきたい戦争と経済の本質』(祥伝社黄金文庫)で解説します。

敵国を支援してでも金融市場を守れ

国際社会に少々、不可解な印象を与えたロシアによるクリミア侵攻も、経済というフィルターを通すことでかなり客観的に分析することが可能です。

 

2014年、ロシアはウクライナのクリミアを制圧、自国の影響下に置きました。世の中では、大きな戦争が起こるのではないかと憂慮する声が出ましたが、各国の資本家は思いのほか落ち着いていました。

 

■ロシアはなぜ戦線を拡大しないのか?

 

その理由は単純で、資本家は戦争とお金の関係を知り尽くしており、ロシアに戦線を拡大する能力がないことは、資本家の間では常識だったからです。

 

結局、ロシアのクリミア侵攻に対して市場はあまり反応しませんでした。

 

ロシアは軍事大国で強い国家というイメージがありますが、これは、策略に長けた政治家であるプーチン大統領が戦略的に作り上げてきたイメージにほかなりません。本連載で解説している経済と戦争の関係を知っていれば、ロシアは必ずしも軍事大国とは呼べない実態がわかってきます。

 

ロシアのGDPは220兆円ほどしかなく、思いのほか小規模です。日本は約500兆円、中国は1200兆円、米国は2000兆円ですから、その差は圧倒的です。さらにロシアの経済構造は、米国や日本、中国と比べても非常に脆弱です。

 

ロシアには目立った産業がなく、天然ガスくらいしか国外に輸出して外貨を稼げる手段がありません。原油価格が安くなってしまうと、国庫への収入が減るだけでなく、輸入に必要な外貨すら不足することになります。このため、原油価格の状況によっては国内の経済が大打撃を受けることになってしまいます。

 

ロシアがクリミアに侵攻したのは、大国の野心というよりも、原油安で追い込まれたことから、軍事力を使って最大限の効果を上げようとした結果と考えられます。もしロシアが本格的な戦争に踏み込むためには、かなりの資金を調達しなければなりません。ロシアは、米国や日本、中国と異なり、グローバルに通用する金融市場を持っていませんから、資金の調達力には限界があります。莫大な戦費を無理に調達すれば、インフレがさらに加速してしまうでしょう。

 

プーチン大統領は徹底的なリアリストですから、こうした戦争の法則を知り尽くしているはずです。よほどのことがない限り、ロシアが戦線を拡大する可能性は低いでしょう(注:ロシアがウクライナ全土への侵攻を行ったのは、クリミア併合から8年後。原油価格が上昇し、ロシアの財政基盤がある程度好転してからでした)。プーチン大統領が行っているのはあくまで芝居にすぎないのです。

 

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本連載は加谷珪一氏の著書『戦争の値段 教養として身につけておきたい戦争と経済の本質』((祥伝社黄金文庫)より一部を抜粋し、再編集したものです。基本的に書籍が出版された2016年当時の記述となっており、各種統計の数字は2016年時点のものです。国際情勢が変化し、追記が必要な部分については、著者注として補足しています。

戦争の値段――教養として身につけておきたい戦争と経済の本質

戦争の値段――教養として身につけておきたい戦争と経済の本質

加谷 珪一

祥伝社

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