(写真はイメージです/PIXTA)

2020年4月1日より、残業代請求の時効が従来の2年から3年へと改正されましたが、今後さらに5年に伸びる可能性もあるといわれています。これにより、未払い残業代のある企業のリスクがより高くなっています。今回は、未払い残業代請求への対策について、Authense法律事務所の西尾公伸弁護士が解説します。

 

「企業に支払義務がある」残業代の例

企業が残業代を支払うべき主な場面は、次のとおりです。

 

法定労働時間を超えた残業

残業代労働基準法上の労働時間は、1日8時間、週40時間までです。これを超えて従業員を労働(法定時間外労働)させた場合には、原則として残業代を支払わなければなりません。この場合の割増賃率は、通常の賃金の2割5分以上となります。なお、1ヵ月の時間外労働が60時間を超えた場合、超えた部分の割増率は5割以上となります。

 

現在、この規定は中小企業には適用がありませんが、2023年4月1日から中小企業にも適用されることになるので注意が必要です。

 

深夜労働に該当する残業

深夜労働とは、午後10時から午前5時までのあいだの労働を指します。平日に深夜労働をさせた場合の割増率は、通常の賃金の2割5分以上となります。つまり、平日に所定労働時間を超え、かつ深夜労働に該当する労働をさせる場合には、通常の賃金の5割(=2割5分+2割5分)以上の割増賃金を支払う必要があります。

 

休日労働分の残業

休日労働とは、労働基準法上、使用者が労働者に必ず与えなければならない休日(少なくとも毎週1日)に労働させることです。この休日労働をさせた場合の割増率は、通常の賃金の3割5分以上です。

 

なお、休日かつ午後10時から午前5時までのあいだの深夜に労働させた場合には、さらに深夜分の残業代が加算されるため、通常の賃金の6割(=3割5分+2割5分)以上に相当する残業代を支払う必要があります。ただし、休日に法定労働時間を超える労働(8時間以上の労働)を行った場合でも、法定時間外労働と休日労働の割増率は合算されない(休日労働分3割5分の割増率で足りる)ので注意が必要です。

時効期間を過ぎても支払義務がある「例外ケース」

所定の時効期間(改正後は3年)が経過した場合であっても、例外的に残業代債権が消滅しない場合があります。その場合とは、次のとおりです。

 

企業側が不法行為をしている場合

企業側の残業代不払いが不法行為に該当すると判断される場合には、残業代請求の時効ではなく、不法行為による損害賠償請求の時効が適用される余地があります。不法行為による損害賠償請求権の時効は、損害と加害者を知ったときから3年です。

 

たとえば、企業側が残業代の不払いを認識していながら支払ってこなかった場合や、企業側が適切な労務管理を怠っていたと認められる場合など悪質性が高い場合には、不法行為責任が問われる可能性があるでしょう。

 

会社が時効を援用しない場合

残業代請求権などの債権は、所定の時効期間が経過したことをもって自動的に消滅するわけではありません。債権を確定的に消滅させるためには、債務者側(残業代でいえば、企業側)が、時効を援用することが必要です。時効の援用とは、「この期間の残業代は、既に時効期間を経過しているため支払いません」と主張することを指します。

 

そのため、仮に従業員側が5年間分など長期間の残業代を請求してきた場合などには、注意が必要です。なぜなら、企業側が「支払いますので、少し待ってください」などと債務を承認する返答をしてしまえば、債務の承認に該当し、もはや時効の援用をすることはできず、実際に5年間分の残業代を支払う義務が生じる可能性が高いためです。このようなリスクもあるため、残業代を請求された際には、不用意に自社のみで対応をすることは避けるべきでしょう。

 

企業が残業代の請求を妨害した場合

企業がタイムカードの情報を偽造するなど、残業代の請求を妨害していると認められる場合には、時効の援用が権利濫用となり、認められない可能性があります。未払い残業代を支払う期間をできるだけ短くしたいからといって、資料を隠ぺいしたり従業員を脅したりするような行為は絶対に行なわないようにしましょう。

 

次ページ未払い残業代に対する「企業側の罰則」

本記事はAuthense企業法務のブログ・コラムを転載したものです。

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