(※写真はイメージです/PIXTA)

「ホームジム」があると、空いた時間にトレーニング、人の眼も気にせずトレーニング。ジムにいく時間も節約してトレーニング。朝でも夜でも深夜でもトレーニング…。その便利さ故にダメだと気づくといいます。還暦から筋トレを始めた城アラキ氏が著書『負けない筋トレ 還暦から筋トレにハマったら、「肉体」と「人生」が激変した!』(ブックマン社)で解説します。

本格的なホームジムをすすめない理由

■なぜ人はバーに来るのか

 

バー漫画の原作家が若い新人バーテンダー君がいる店に行くと、しばしばこんな意地悪な質問をする。

 

「人はなぜバーに来ると思う? 美味しいカクテルが飲めるから? それなら納得できる。水割りだって確かにプロの1杯はまったく違う。氷の上にウイスキーを注ぐだけのオンザロックだって氷の締め方が違うから味も薄まらない。そこまではわかる。

 

じゃあウイスキーのストレートは? 一流のバーテンダーが注ぐウイスキーも私の注ぐウイスキーもさすがに味は変わらないだろ。ビンを傾けるだけだもん。

 

そのくせ酒屋で買えば仮に1本1000円のウイスキーがバーで飲んだら1杯1000円。1本から20杯取ったとしてざっと原価の20倍! ここにチャージも付く。ちなみにグラスだってウチの方がよほど高級だよ。雰囲気が違うと言うけど、照明を消してキャンドルでも立てりゃ、こことさほどは違わない。

 

しかも、目の前に立っているのは誰? 見ているだけで酒がすすむ美人がいるならともかく、立っているのはイケメンでもない……君。さぁそれなのになぜ人はバーに来る?

 

それはね。君が、そのイケメンでもない君がバーテンダーで、ここがバーだから。君は、立っているだけでウイスキー1杯で原価20倍の金をとっても客が満足できる存在にならなきゃいけない。そしてこのバーの空気を、自宅では味わえないほどに磨き上げなきゃいけない。そう、大事なのは空気。バーの本当の売り物はバーという空気」

 

と説教をすると、たいがい笑ってこう言われる。

 

「城さん、今日はもうだいぶ酔っていますね」──。

 

■自宅トレの注意点

 

あなたの意志が鉄でできた20㎏プレートのように強固ならともかく、自宅でのトレーニングはいくら機器が揃っていても、その場限りの気分転換になりがちだ。いつでもできる=じゃあもう少し後で。着替え不要=気分が本気のトレーニングモードにならない。人の眼を気にしなくていい=フォームも回数も適当でいいや。ジムに行く時間を節約=どうせ外に出るならそもそもトレーニング自体やめて飲みに行くか。

 

ジムにあるのはマシンだけではない。ジムという空気。かすかな汗の匂いと真剣さなのだ。バーの酒なら1杯のグラスに向き合う、筋トレなら1回のバーベルの挙上に向き合う。その緊張感と集中力。それを45〜90分持続させる濃密な空気が大事なのだ。バーもジムも大切なのは空気。そこまでは確かに同じだが、後が少々変わる。

 

ジムは正直、行くまでは「面倒だな、今日はサボっちゃうか」と思う日もある。初めはテンションも上がらない、ところが最初の種目の1セットが終わる頃には、少しだけ気力が体に満ちてくるのがわかる。結果、トレーニングを終えて締めのプロテインを飲む頃には、「今日も満足なトレーニングができた良い日であった」と喜べる。

 

バーはどうか。バーは初めからウキウキとその扉を押す。最初の1、2杯を飲むうちは、体と心は緩んでも、ちゃんと背筋が伸びた美しい酒飲みだ。心の隅で「今日は深酒はやめるぞ!」と固く誓っているから、飲み方も丁寧だ。やがて小一時間が経過する。ジムなら最後のプロテイン、バーなら締めの古いリキュール。

 

だが、ここからがジムとは違う。家に帰ってから必ず最後のモルトを何杯か飲んでしまう。これがいけない。結果、翌朝起きると、またこう思って落ち込んでしまうのだ。

 

「ああ、昨日もダメなノンベイであった」

 

ちなみに私、バーで酔い潰れることはないが(ま、たまにはあるが)、自宅で飲むと必ずダラダラ飲み過ぎて翌日は二日酔いになる。

 

城 アラキ
漫画原作家

 

 

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本連載は、城アラキ氏の著書『負けない筋トレ 還暦から筋トレにハマったら、「肉体」と「人生」が激変した!』(ブックマン社)より一部を抜粋し、再編集したものです。

負けない筋トレ

負けない筋トレ

城 アラキ

ブックマン社

『ソムリエ』『バーテンダー』など、数々のお酒にまつわる傑作漫画の原作を手掛けてきた著者は自他ともに認める酒呑みであり、美食家だ。3日に一度は暴飲暴食。仕事柄、1日の歩数が500歩なんてザラだった。運動もしない日々を…

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