宿泊業のDX「課題」
課題1.ITにくわしい人材がいない
旅館業にかぎらず接客に関わる中小企業がIT人材を抱えることは、ほぼ不可能でしょう。家族経営でIT化をいち早く進め話題となった神奈川県鶴巻温泉「陣屋」も、元サラリーマンのご主人が開発を手掛けたという異色のストーリーがあってこそ。
そんな接客業のDXに大いに役立つのがIT顧問というサービスです。顧問税理士など同様に月極めの契約をし、旅館のデジタル化のアドバイスを定期的に受けます。その頻度や内容により変わりますが、月々数万円から顧問契約を結ぶことも可能です。顧問は、ただITにくわしい方というより宿泊業の経営経験まではなくとも、店舗ビジネスを自ら経験もしくはアドバイスした経歴を持つ方を選ぶべきです。
私の経験からもITエンジニアと対等に話すには、話す側にもそれなりの業務知識が必要だからです。もちろん相談者の人柄が第一ですが、検討する価値はあります。
課題2.顧客台帳を「活用しやすいデータ資産」にどう変えるか
顧客台帳という財産は、紙で管理している場合もあればエクセルで管理している場合も、大手旅行サイトの管理データ上に存在する場合もあるでしょう。これらを「いつでも活用できる形」に変えなくてはいけません。宿泊業はリピートのお客様に支えられていますから、これは生き残りに不可欠な戦略です。
顧客台帳をデータ資産に変える方法を順に見ていきましょう。
まずは、いまの顧客台帳を整理するところから始めます。ご予約方法によって顧客情報がバラバラになっている場合もありますし、予約時の情報だけではなく宿泊時の情報まで考えると、より多くの情報が点在していることも。これらも漏れなく集めて整理しましょう。
次にまとめた情報をどう利用するか優先順位を考えます。顧客対応、季節のご案内、従業員の情報共有、現在の宿泊状況などをリアルタイムで活用、売上管理などたくさんの要望があると思います。全部をまかなうのが理想ですが、欲張りすぎて導入費用がふくらむ、導入しても使いきれないなども考えられるので、優先順位をつけることが重要です。
続いてシステム選定です。まとめたデータと実現したいことの優先順位を決めれば、利用すべきシステムを選べるようになります。資料請求や実際にできることの確認をして1次審査、2次審査のように絞り込みながら決めることをおすすめします。実現したいことが具体的であればあるほど絞り込みも楽になり、サービス提供側も「これはできるけど、これはできない」など率直な回答を得られます。
最後が導入です。ITにくわしくない前提で考えると、導入がどれだけ楽か、サポートは充実しているかも選定基準となります。導入に時間がかかりそうなら外注もいいでしょう。ただ、目的は導入ではなく、その先にあるお客様対応の改善です。導入後の従業員への使い方教育も、業者か外注先に依頼しましょう。
顧客台帳がデータ資産に変わると、インターネットにさえ繋がっていれば、お客様情報を管理して経営に活かす下地が整います。
課題3.データ資産に変えた顧客台帳の活用方法
顧客台帳がデータ化したことによるメリットは、たくさんあります。
「お客様情報が検索ですぐに見つかる」
「問い合わせへの対応速度が上がり、お客様をお待たせしない」
「お客様の予約時の要望が誰でもわかる」
「(タブレットなどを使えば)チェックイン時の情報が客室係に即反映される」
「(その逆で)客室係の情報がフロントにすぐに伝わる」
「宿泊後のお客様に定期的にサンキューレターなどを送れる」
「複数の宿泊サイトから予約されたお客様を一元管理できる」
「お客様のアレルギー情報などを忘れずにチェックできる」
など、活用できることはたくさんあります。せっかくデジタル化したので、お客様の宿泊予約時から宿泊時、アフターフォローまでの流れを見直しましょう。デジタルならではの活用を組み込んだお客様対応に進化させることで、他施設との差別化にも繋がり、お客様視点でも満足度が高まる結果となります。
まとめ
ここでは一般的な活用法を記載しましたが、お客様の満足度が高まることで直接ご予約いただく機会も増え、売上と利益を高めるチャンスを得られます。デジタル化は、この費用対効果をどれだけ見越していくかも導入時の基準なので、導入前から導入後の活用までを具体的に描いて進めていくことをおすすめします。
日淺 光博
DXコンサルタント
株式会社日淺 代表取締役社長