本記事は、フランクリン・テンプルトン・ジャパン株式会社が10月20日に配信したレポート『フランクリン・テンプルトン債券グループによる見解』より一部を抜粋したものです。

欧州政府の「積極財政スタンス」は当面続くか

欧州政府はおおむね積極財政のスタンスを維持しており、家計や企業へのエネルギー危機の影響を緩和する狙いから引き続き政府介入の動きを強めています。「主要4ヵ国(フランス、ドイツ、イタリア、スペイン)」は2021年の夏の終わりから一連の政府介入に乗り出し、介入規模は足元で合わせてユーロ圏のGDPの2.0%に達すると推測されます(注7)

 

(注7)出所:ドイツ銀行

 

天然ガス消費の強制削減措置が導入されれば、所得の減少を補償するために追加の対策が発動される可能性もありますが、所得減少を完全に補償することは困難でしょう。

 

EUではすでに、貧困者向けの所得保護措置と価格統制の政策ミックスが導入されており、追加措置が打ち出される見通しです。欧州委員会の介入は将来の対策の方向性を示唆するシグナルになります。

 

要約すれば、天然ガス供給の寸断リスクと景気後退リスクは高いものの、政府や企業の先を見越した取り組みにより景気の落ち着きどころをコントロールしやすくなる可能性があります。

マイナス金利から一転、中立金利以上に?

ECBは11年ぶりの利上げに踏み切りました。7月の会合で政策金利を0.50%引き上げ、8年間におよぶマイナス金利を解除しました。9月の会合でも、8月に9.1%に急上昇したインフレ率に遅れまいと0.75%もの大幅な追加利上げを実施しました(注8)

 

(注8)出所:ユーロスタット

 

9月の会合後に発表されたECBの声明文や記者会見では、タカ派寄りの文言が数多く盛り込まれました。「需要を抑え込み、期待インフレ率の持続的な上方シフトのリスクを回避する」必要性と並んで、金融政策の正常化を追求する必要性も現実のものとなっています。

 

その結果、期待インフレ率の上振れを防ぐため、ECBが政策金利を急ピッチで中立水準かまたはそれ以上に引き上げる可能性が高まっています。

 

ECBは公の場で誤りを認め、信用を失墜させた形になりましたが、インフレ予想は再び大幅に修正され、2024年見通しでは目標を上回る2.3%と予想されています。前述の通り、成長リスクはあるものの、預金金利を抑制的な領域に引き上げる意欲は高まっています。

 

複数の要因からECBのスタンスは多面的なものとなっています。考察と留意点の一部は以下の通りです。

 

フォワードガイダンスの撤回

7月の会合ではECBが幅広く活用していたフォワードガイダンスが事実上、撤回されました。

 

今後の政策決定は完全にデータ次第となり、会合ごとに行われ、政策運営の柔軟性は高まります。景気減速に伴い利上げサイクルを休止するというハト派寄りの選択肢も理論的には排除されていませんが、ECBの高官の直近の発言や断固とした利上げ姿勢からすると、そうしたシナリオが実現する可能性は一段と低くなりつつあります。

 

9月の利上げによりECBはターミナルレート(1.5%台)に向けて利上げを加速し、他の国に比べ遅れを取った分を多少なりとも挽回しやすくなります。10月と12月の追加利上げは確実とみられ、ECBの記者会見後に0.75%の追加利上げへの支持が示唆されるなど、より大幅な利上げの可能性も否定できません。

 

我々は、中銀預金金利が年末には最低でも1.5%に達し、大きく上振れするリスクもあると予想しています。2023年第1四半期に追加利上げが行われ、ターミナルレートが抑制的な領域(2.25%~2.50%のレンジ)に引き上げられる可能性も否定できません。

 

TPI(伝達保護措置)の導入をきっかけに多くの政治的懸案が浮き彫りに

ECBは6月の時点では必要ないと判断していたにもかかわらず、その直後の緊急会合で前言をただちに覆し、最終的に市場分断防止策を導入すると発表しました。

 

TPIは全会一致で承認され、ECBとして信認を取り戻したようにも見えますが、いくつかの懸案が覆い隠されています。

 

TPIにはユーロ圏の「不当かつ無秩序な市場の動きに対抗する」狙いがあり、適格基準や理事会の最終決定が必要となります。TPIには4つの要件があり、要約すれば、EUの財政枠組みの遵守、債務の持続性、次世代EU(NGEU)改革への取り組み、それらのタイムリーな実施となります。

 

したがって、TPIは財政の健全化に向けた明示的なインセンティブを持つセーフガード措置となります。「ファンダメンタルズ」からのスプレッドのかい離リスクを回避し、政府に慎重な経済政策の実施を促す狙いがあり、実際に使用されることは意図されていません。

 

しかし、ECBのパンデミック緊急購入プログラム(PEPP)の再投資は初の市場分断防止策とされ、7月に頻繁に活用され、ドイツとオランダの債券を犠牲にイタリアとスペインの債券が購入されました。

 

我々の解釈では、これはTPIの発動のハードルが極めて高いことを示唆しており、政局の不透明感だけで発動される見込みがないことは明らかです。TPIは未知の手段として複数の政治的要素をECB内部で議論する必要があります。

 

資産を「守る」「増やす」「次世代に引き継ぐ」
ために必要な「学び」をご提供 >>カメハメハ倶楽部

次ページ未知の反応関数の分析

※いかなる目的であれ、当資料の一部又は全部の無断での使用・複製は固くお断りいたします。
●当資料は説明資料としてフランクリン・テンプルトン(フランクリン・テンプルトン・リソーシズ・インクとその傘下の関連会社を含みます。以下FT)が作成した資料を、フランクリン・テンプルトン・ ジャパン株式会社が翻訳した資料です。
●当資料は、FTが各種データに基づいて作成したものですが、その情報の確実性、完結性を保証するものではありません。
●当資料に記載された過去の成績は、将来の成績を予測あるいは保証するものではありません。また記載 されている運用スタンス、目標等は、将来の成果を保証するものではなく、また予告なく変更されることがあります。
●この書面及びここに記載された情報・商品に関する権利はFTに帰属します。したがって、FTの書面に よる同意なくして、その全部もしくは一部を複製し又その他の方法で配布することはご遠慮ください。
●当資料は情報提供を目的としてのみ作成されたもので、証券の売買の勧誘を目的としたものではありません。
●フランクリン・テンプルトン・ジャパン株式会社(金融商品取引業者 関東財務局長(金商)第417号、加入協会/ 一般社団法人投資信託協会・一般社団法人日本投資顧問業協会・一般社団法人第二種金融商品取引業協会) はフランクリン・リソーシズ・インク傘下の資産運用会社です。

人気記事ランキング

  • デイリー
  • 週間
  • 月間

メルマガ会員登録者の
ご案内

メルマガ会員限定記事をお読みいただける他、新着記事の一覧をメールで配信。カメハメハ倶楽部主催の各種セミナー案内等、知的武装をし、行動するための情報を厳選してお届けします。

メルマガ登録