本記事は、フランクリン・テンプルトン・ジャパン株式会社が10月20日に配信したレポート『フランクリン・テンプルトン債券グループによる見解』より一部を抜粋したものです。

未知の反応関数の分析

ECBがフォワードガイダンスを撤回したことから、ECBの反応関数を分析することは一層、困難になります。インフレが引き続き中心課題となることに変わりはありませんが、エネルギー危機は収束には程遠く、インフレの基調もなお上振れ傾向にあり、短期的にインフレが和らぐ可能性は低くなっています。

 

ECBの9月時点のインフレ見通しでは2023年は5.5%(6月時点では3.5%)が見込まれ、2023年の成長率は(6月時点の2.1%)から0.9%に下方修正され、下方シナリオではユーロ圏は0.9%のマイナス成長となり、景気後退に陥ると予想されています(注9)。ECBは引き続き以下の要因を特に注視すると考えられます。

 

(注9)出所:ECB

 

長期期待インフレ率が上振れ

足元の極端なインフレ率が期待インフレ率に火をつけていることから、ECBは懸念を強めています。第3四半期のECBの専門家予測調査(SPF)に基づく長期消費者物価指数の予想上昇率は2.2%にさらに加速し、過去最高を記録しています。

 

また、特に懸念されるのは長期消費者物価指数の予想上昇率が右肩上がりにシフトしており、さらにシフトする兆しを見せていることです。最新の消費者期待調査(CES)によると、ユーロ圏の平均世帯は中期的にインフレ率が目標を上回ると予想しています。こうした指標の動きはECB内部の政策議論の中心テーマになりつつあります。

 

資金調達環境はひっ迫しつつあるものの、借入需要は旺盛

ECBは数年間におよぶ異例の金融緩和から金融引き締めに転じる必要に迫られると同時に、ロシア産の天然ガス供給に起因する景気後退リスクに見舞われ、その微妙なバランスを取ろうと腐心しています。

 

差し迫るECBの動きを見込んで資金調達環境がすでにひっ迫している中、ECBの利上げプロセスは始まりました。第2四半期の銀行貸出調査によると、企業、家計ともに与信を取り巻く状況は悪化しています。家計と、金融機関を除く企業の双方で借入金利はいずれもまだ歴史的な低水準にとどまっていますが、借入コストは上昇傾向にあります。

 

さらに、銀行は企業向け貸出の減少を予想していますが、企業向け貸出は7月に前年同月比7.6%増加しています。足元の金融政策は依然、景気刺激型であり、一層の金融引き締めが必要になるとみられます。

 

賃金の伸びは上向き、来年には一段と加速する可能性も

労働市場の歴史的なひっ迫を背景に、賃金の伸びは加速しています。ユーロ圏の失業率は過去最低水準まで低下し続け、7月は6.6%を記録しました(注10)

 

(注10)出所:ユーロスタット

 

引き続きドイツの動向に注目が集まり、ドイツでは労使交渉が9月末から年末にかけて予定され、600万人以上の労働者に直接影響をおよぼします。産業界はベースアップではなく、一時金の積み増しを提示する可能性が高く、ECBでは一時金の積み増しはベースアップに比べインフレ要因にはなりにくいと見ているため、賃上げの方法が重要になります。

 

さらに、最低賃金も10月に時給12ユーロに引き上げられ、800万人の労働者に直接影響をおよぼします(注11)。様々な階層の労働者にも間接的に影響がおよびます。賃上げの大部分は1月1日から実施されることから、2023年の賃金インフレも記録的な水準に達すると予想されます。

 

(注11)出所:ドイツ銀行

 

2009年1月~2022年7月
[図表3]欧州中央銀行の借入コスト指数 2009年1月~2022年7月

 

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