TPPは日本にとって圧倒的な有利な条約
なぜ自由に取引した方がよいのかというと、経済学的にその方が有利だからです。
各国には得意なことと不得意なことがあり、1つの国ですべての産業を育成するのではなく、各国が得意な分野に集中し、足りない分は輸入でカバーした方が全員にとってメリットがある(比較優位)というのがその基本的な理屈です。
比較優位は、経済的な規模の大小にかかわらず、自由貿易に参加するすべての国にメリットがあるという考え方ですが、現実に自由貿易を行った場合、必ずしもそうなるとは限りません。
比較優位であることがわかっていても、企業がビジネスモデルを迅速に切り替えたり、労働者が仕事を変えたりすることはそう容易ではないからです。結果としてどのようなことが起こるのかというと、各国は、可能な範囲で分業を行うということになりますから、現実には得する国と損する国が出てきてしまいます。さらに具体的にいうと、経済規模が大きく、付加価値の高い国が圧倒的に有利になることがほとんどです。
この理屈を今回のTPPに当てはめてみると、どのようなことが想像できるでしょうか。TPP参加国の中で、米国と日本のGDPは8割を超えており、両国の規模は突出しています。しかも日本はTPP加盟国の中で最大の工業国です。
つまりTPPは実は日本にとって圧倒的に有利な条約ということになります。米国が日本に対してTPP交渉での譲歩を強く迫っていたのは、仮に米国に対して多少譲歩しても、日本は儲かるのだからよいではないか、という発想があったからです。
しかし、交渉を進めた当時の日本側の感覚は米国側のそれとはだいぶ違っていたようです。とにかく強大な米国から日本を守らなければという、後ろ向きな雰囲気が支配していました。
確かに、TPP合意による農業の自由化によって国内農家の一部は打撃を受けることになりますが、もっと俯瞰的な視点で見れば、TPPは日本が大国としての特権を享受できる貴重な場でもあるわけです。こうした視点があれば、TPPに対する取り組み方も、違ったものになっていたかもしれません。
加谷 珪一
経済評論家
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