(※写真はイメージです/PIXTA)

原油や小麦、天然ガスといった国際商品の価格上昇はロシアのウクライナ侵攻の前の2020年から始まっています。それはなぜなのでしょうか。ジャーナリストの田村秀男氏が著書『日本経済は再生できるか 「豊かな暮らし」を取り戻す最後の処方箋』(ワニブックス【PLUS】新書)で解説します。

OPECプラスの石油減産は新型コロナ対策

OPECプラスが協調減産を決めたのは、もちろんウクライナ侵攻が原因ではありません。これも、新型コロナでした。前年末から世界中に広がったコロナ禍で、世界中であらゆる生産にブレーキがかかり、物流も滞るようになり、需要が減ったことで原油価格も急落しました。

 

需要が落ちるなかで原油生産量が変わらなければ、需要と供給の関係から原油価格は急落し、OPECプラスにとっては大幅な収入源になってしまいます。これを防ぐには需給バランスを保てる供給量にするしかなく、だからOPECプラスは協調減産に踏み切ったことになります。

 

コロナ禍で落ちた需要に見合った供給量であれば、理論的には価格は安定するはずです。しかし実際のところ、原油価格は上昇を続けることになりました。先述した金融緩和と量的緩和によってダブついた資金が、原油市場にも流れ込んだからです。

 

グラフ1―②は新型コロナウイルス・パンデミック前である2019年以降の、世界の石油生産、原油価格とFRBによるドル資金発行(マネタリーベース=中央銀行が直接的に供給するお金)の推移を追っています。

 

パンデミック勃発でFRB(米連邦準備制度理事会)は量的緩和を再開し、ドル資金が大量に増発されていきます。逆に石油生産は急減したあと、増産の度合いは極めて緩やかです。米国景気は2021年初めまでにコロナ不況からのV字型回復軌道にはいり、石油需要が増えます。そして需給関係の好転とともに原油価格が上昇しはじめます。そのなかで、ゼロ金利のドル資金供給が膨張するのですから、投機勢力はそのカネを吸い上げて原油の先物価格をつり上げていきます。

 

協調減産により、供給量が減った原油を取り合う競争激化によって価格を上げるというOPECプラスの〝思惑〞に加えて、ダブついた資金が流入することで、どんどん高値がつけられていきます。

 

相場の変動を利用して利益を得ることを目的にした投機でしかないのですが、それも資本主義の一面です。その元手はダブついた資金で潤沢ですから、どんどん投機が進み、原油価格は高騰していきます。その影響で原油製品であるガソリンなどが値上がりし、石油を原料や燃料とする製品の価格にも波及していきます。その結果、物価高騰となり、人々の生活に深刻な影響を与えていくことになります。

 

FRBの量的拡大のピークは2021年末で、そのときには石油価格上昇が一服というところでした。ところが2021年12月からウクライナ情勢が緊迫化しはじめ、石油価格上昇に弾みがついた。FRBは2022年3月中旬にはゼロ金利を解除し利上げに転じたのですが、投機は続きました。しかし、6月の大幅利上げとドル資金発行量縮小で、投機の勢いが弱まっているというわけです。

 

ウクライナ侵攻がエネルギー価格急騰の原因のひとつになったのは事実ですが、原油相場上昇のそもそもの原因はOPECプラスの協調減産であり、それに乗じた投機がエスカレートしたためです。

 

その事実を認識していれば、岸田首相のような発言にはならない。ドル金融の重大性を軽んじていると、今後の世界経済、日本経済の舵とりを間違うことにもなりかねません。

 

田村 秀男
産経新聞特別記者、編集委員兼論説委員

 

 

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本連載は田村秀男氏の著書『日本経済は再生できるか 「豊かな暮らし」を取り戻す最後の処方箋』(ワニブックスPLUS新書)より一部を抜粋し、再編集したものです。

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