(※写真はイメージです/PIXTA)

原油や小麦、天然ガスといった国際商品の価格上昇はロシアのウクライナ侵攻の前の2020年から始まっています。それはなぜなのでしょうか。ジャーナリストの田村秀男氏が著書『日本経済は再生できるか 「豊かな暮らし」を取り戻す最後の処方箋』(ワニブックス【PLUS】新書)で解説します。

岸田首相がG7サミットで語った物価高騰の原因

■物価高騰はウクライナ侵攻前から始まっていた

 

正直、あきれました。

 

ドイツ南部のエルマウでG7サミットが開幕したのは、2022年6月26日でした。岸田文雄首相にとっては、緊急会合やオンライン形式ではない、定例のG7サミットとしては初参加となるものでした。

 

初日は「世界経済」がテーマでしたが、そこで岸田首相は「ロシアのウクライナ侵攻という外的ショックによる物価高騰が、世界各国の経済を襲っている」と指摘しています。日本もふくめて世界的な物価高騰が続いている最中でのG7サミットであり、だからこそ会議の最初のテーマになったわけですが、その物価高騰の原因を2022年2月24日に始まったロシアのウクライナ侵攻だと岸田首相は断定しています。

 

しかし、原油(グラフ1―①)や小麦、天然ガスといった国際商品の価格上昇はウクライナ侵攻前の2020年から始まっています。こうした国際商品の値上がりが、世界各国での物価高騰の最大要因です。もちろん、日本も例外ではありません。

 

その国際商品の高騰を招いたきっかけは、2019年12月に中国の武漢で報告された病因不明の肺炎から検出された、新型コロナウイルスによる世界的パンデミックです。

 

コロナ禍での経済悪化や金融市場の混乱に対し、日米欧の中央銀行は2020年3月に金利を引き下げる大規模な金融緩和を行っています。米国はゼロ金利を復活させ、英国も史上最低の0.18パーセントまで金利を引き下げています。日本は一貫して金融緩和だったわけですが、その姿勢をコロナ禍でも貫きます。

 

金融緩和だけでなく、同時にカネの供給量を増やす量的緩和も強化しました。量的緩和とは、とくに国債ですが、金融市場の証券類を中央銀行が買い上げることで、金融市場で流通する資金量を増やすことです。

 

コロナ禍で仕事が減ったり、働けなくなった人や、売上が急減した店などを救済するために政府は財政出動しなければならず、そのために国債を大量に発行することになります。その国債をコロナ禍の不況では引き受けるところも少ないので、中央銀行が買い上げなければなりません。買い上げるには、単純に言えば、米国の中央銀行に当たる連邦準備制度理事会(FRB)がドル札の発行を決めて、どんどん刷ればいい。日本の場合も日銀が決めて円札を刷ることになります。

 

それによって流通する資金量は増え、それが株式市場に向かい、株価を押し上げていき、株価暴落など大混乱が起きるのを防ぎます。これに一定の効果はありました。

 

しかし、金融の量的拡大と超低金利の両方によって、市場には必要以上のカネが流入してしまいました。急激な資金量の増加を、短期間に吸収できる経済の仕組みになっていないからです。そこで起きたのが「カネ余り」の状態、つまり資金の「ダブつき」でした。

 

ダブついた資金はとどまったままでいられないのが資本主義で、「儲かる場所」を求めて資金は移動していくことになります。

 

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本連載は田村秀男氏の著書『日本経済は再生できるか 「豊かな暮らし」を取り戻す最後の処方箋』(ワニブックスPLUS新書)より一部を抜粋し、再編集したものです。

日本経済は再生できるか

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田村 秀男

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