(※写真はイメージです/PIXTA)

原油や小麦、天然ガスといった国際商品の価格上昇はロシアのウクライナ侵攻の前の2020年から始まっています。それはなぜなのでしょうか。ジャーナリストの田村秀男氏が著書『日本経済は再生できるか 「豊かな暮らし」を取り戻す最後の処方箋』(ワニブックス【PLUS】新書)で解説します。

世界のダブついた資金の行き先はどこか?

2020年3月からの緩和でタブついた資金がどこに向かったのか、私は色々な統計をチェックしてみました。そうすると、ダブついた資金の行き先は〝胃袋〞でした。

 

原油などよりも早く、緩和が始まってすぐの三月から四月にかけて価格が上昇していったのが、小麦をはじめとする穀物です。人々の胃袋を満たすための穀物市場に、ダブついた大量の資金が流れ込み、価格を押し上げていました。この基調が続いているなかで、ロシアのウクライナ侵攻が始まったのです。

 

米農務省(USDA)によると2020年度と2021年度における世界の小麦輸出シェアは、ロシアが21パーセント、ウクライナが9パーセントで全体の4分の1強も占めています。

 

ロシアのウクライナ侵攻によって、この両国からの輸出が大幅に減少すれば、全体の流通量が急減することになります。少ない量の奪い合いとなれば、高いお金を払ってでも確保しようという競争になりますから、結果、小麦価格は一段と高騰することになります。

 

急騰が確実となると、まだ安いときに抑えておいて高くなったら放出すれば利益は増えるので、それを見越しての動きも加速し、価格高騰に拍車がかかっていきます。小麦価格が上がればパンなどの製品価格も上がるし、飼料原料となるトウモロコシの価格が高騰すれば、コストが上がるので肉の価格もジワジワと上がっていくことになります。つまり、物価高騰につながります。

 

ウクライナ侵攻は物価急騰の要因には違いないのですが、根本的な原因はグローバルなカネの流れの膨張にあるのです。

 

先に見たように、小麦をはじめとする穀物の価格が上昇しはじめたのは、ウクライナ侵攻前からのことです。穀物の価格高騰、それによる物価高騰の原因をウクライナ侵攻だけに求めるのは的外れと言うしかありません。的外れであるだけでなく、ウクライナ侵攻のせいだけにして真の原因から目をそらすことになるので、物価高騰も止められません。

 

国際経済の動きを正しく理解するには、原因を見つめる姿勢こそが重要になります。

 

■原油価格上昇の真相

 

原油価格が上昇しはじめたのは、穀物のあとでした。といってもウクライナ侵攻前のことで、これもウクライナ侵攻だけを原因として挙げるのは問題の本質から目をそらすことになります。

 

原油価格が比較的安定していたのは、OPEC(石油輸出国機構)加盟国などが需要に合わせて増産してきたからです。需要と供給のバランスがとれてさえいれば、価格は安定するはずです。

 

ところがOPEC加盟国にロシアなどにOPEC非加盟の原油生産国も加えた「OPECプラス」が、2020年4月に協調減産を決めます。それも、過去最大規模となる日量970万バレルにもなる大規模減産でした。供給量が大幅に減ることになって、価格が高騰していきます。

 

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本連載は田村秀男氏の著書『日本経済は再生できるか 「豊かな暮らし」を取り戻す最後の処方箋』(ワニブックスPLUS新書)より一部を抜粋し、再編集したものです。

日本経済は再生できるか

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田村 秀男

ワニブックス

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