図書館に行って勉強するという対策
■【回答】環境を変えましょう
まず、なかなか勉強にとりかかれない、つまり、やる気が出ないことへの対策ですが、「作業興奮」という言葉を覚えているでしょうか。やる気というものは、出てくるのをいくら待っていても決して自動的に生まれてはこないというお話をしました。脳の中の「側坐核」という場所がやる気に関係しています。要するに、この側坐核が活性化するとやる気が出てくるというしくみです。
ところが、側坐核は反応が鈍い場所で、頭でちょっと考えるくらいでは活性化は起こりにくいのです。活性化のためにはどうするかは、とにかく体を使う作業を始めてしまうというのが答えでした。
何かを書くことや、口に出して音読することや、または、すぐに答えることができる簡単な問題を解くといった行為を数分間続けると、やっと側坐核は反応して、そこからはじめてやる気が出るという流れでした。そこで、山田さんにもこの話を伝えたのです。
やる気は待っていてもやってこないので、とにかくテキストを音読するとか、重要ポイントを書き写すという作業から始めてみます。そして、数分して側坐核が活性化し始めたら、徐々に思考力を使う勉強に移行していくのがいいとアドバイスしました。
また、勉強している環境についてもアドバイスしました。山田さんは、音楽をかけながら勉強しているとのことでしたが、何かを覚える、つまり、記憶が必要な学習においては、できれば無音の環境で行うのが理想的なのです。
よく、「ながら勉強」といい、ラジオや音楽を聴きながら学習している人の話を聞きますが、記憶のしくみの観点からすると、これはNG行為なのです。自分では勉強に集中している気になっていても、脳は周りに何か情報があると自動的にそちらに注意を向けてしまうのです。
つまり、本来は勉強に対して脳を100%集中させているのにも関わらず、周囲に例えば人の声や音楽があると、本人は無自覚でも脳のリソースをそちらにとられることになるのです。とてももったいないというのがわかるでしょう。
だから、脳の力を有効に働かせるためにも、記憶に関する勉強のときはなるべく音はシャットダウンしたほうが理想的なのです。私自身のことをいえば、さらに気を付けていて、自分の勉強のときは「ノイズキャンセル」という周囲の音を消す機能を持つヘッドホンを着けています。このことを話すと、山田さんは『さっそく買います』と言っていました。
ただし、これはあくまでも「覚える」という学習に限ってのことです。勉強には、問題集を解くといったアウトプット型の内容もあります。この場合は軽い雑音があったほうがいいとの研究も報告されています。実は、今私がこの原稿を書いている、つまり、アウトプット作業をしているのは、あるカフェの中です。家にいるときは、YouTubeにカフェの環境音などがあるので、それを流しながら書いたりもしています。
記憶に適した環境の話に戻りますが、おもしろいところでは「香り」も記憶にとても関係が深いのです。研究で、記憶に効果がある香りというのがわかっているのです。
イギリスのノーザンブリア大学の研究によると、ローズマリーの香りには脳神経を活性化させ記憶の能力を高める作用があるとの報告があります。その香りを嗅ぐことで、予定を覚えておく能力が60〜70%ほど高くなったそうです。
それを知ってからは、私も仕事や勉強で何か覚える必要があるときにはディフューザーという香りを拡散させるための装置を使って、ローズマリーのアロマオイルの香りを漂わせています。記憶の効果ということを考えなくとも、もともと良い香りなので、気持ちもリフレッシュできるのでお勧めです。
そして、環境ということであれば、思い切って勉強する場所自体を変えるという手もあります。実は、やる気が出やすい場所の条件があるのです。心理学の「観察学習」という性質を利用できる場所です。
観察学習とは、モデルとなる他者の行動を観察することにより、それを観察している本人も行動が促進されたり、新しい行動を学習したり、行動や習慣が修正されたりする心理のことをいいます。
皆さんも、周りが勉強していると、自分も勉強しなくてはという気持ちになったことはありませんか? 私たちは他者の行動を観察するだけで、自然にその行動をすることがあります。この心理が観察学習なのです。
そこで例えば、周り中に読書をしている人しかいない図書館などは最適なのではないでしょうか。山田さんにも、どうしても勉強のモチベーションが上がらない場合は、図書館に行って勉強するというのも1つの手だとアドバイスしておきました。
池田 義博
記憶力日本選手権大会最多優勝者(6回)
世界記憶力グランドマスター
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