DXでつまずく会社、うまくいく会社
日本企業の8割がDXを始めたと言われますが「うまくいかない」という相談は増える一方です。相談者は「明確なビジョンがない」「社員のデジタル教育が進んでいない」「最適な人材がいない」「経営幹部にデジタルの知見がない」などと口々に言いますが、私はDXを推進した結果のインセンティブが明確でないことが真の原因だと考えます。
たとえば「働き方改革を推進しよう」と経営者が宣言したとします。ある程度の規模の会社なら推進担当が任命され、おもにバックオフィス業務をする部署の人も関与することになるでしょう。
ここで必要となるのがインセンティブです。デール・カーネギーの名著『人を動かす』にも「強い欲求を起こさせる」(その人の好むものや得たいものに対して、それを手に入れる方法を教えることで人は動く) とあるように、人を動かすには動機づけが必要なのです。
インセンティブがあれば、DX推進が順調に進まない事態に直面したとしても努力も工夫もします。しかし経営者なら経営課題の解決、推進担当なら出世や報酬、現インセンティブがなければ、少しつまずいただけで「ビジョンが……」「人材が……」「社員教育が……」など「進められない理由」ばかりが噴出するわけです。私が見てきたDX プロジェクトにつまずいた企業の7割は、このパターンでした。
インセンティブの設定に問題がないとしたら、取り組んでいるDXプロジェクトが「経営課題とのリンク」 ができていないことが疑われます。
上記の働き方改革の例は経営者発信でしたが、社員からDXの働きかけをする場合もあるでしょう。業務改善の要望と言ってもいいかもしれません。
その内容が経営者にとって優先順位が高ければいいですが、もし経営課題と判断されなければ「予算はつかず、声を聞いても行動せず」に。このパターンは、デジタルの知見が少ない経営者や意思決定者がいるDXプロジェクトに特に多い傾向が見られます。せっかく現場が改善案を用意しても、経営者に響かなければ、採用されなかったり計画段階から進まなくなったりしがちです。
最終的には「うちの会社はデジタルの話は稟議(りんぎ)が通らないから」「DXに取り組もうと言ったのは経営者側なのに、提案への理解がない」といった諦めや怒りだけが社内に渦巻く、なんとも残念な事態に。
提案側にぜひ考えていただきたいのが、それが「経営者や経営幹部が考える優先度の高い経営課題の解消に繋がっているか」です。「こちらの考え通りにやれば確実に会社がよくなるのに、そこまで汲み取る必要があるのか」という声も聞こえてきそうですが、決定権のある経営者と違うことを考えていたら、うまくいくのは至難の業。
経営者も納得し、かつ会社全体の改善にもなると示しておけば、くすぶっていた部署間の摩擦解消や社員間の相互理解に繋がることもあります。共通の課題解決に向けて社内がまとまるチャンスを、DXがつくってくれるわけです。