(画像はイメージです/PIXTA)

交通事故の被害に遭い後遺症が残ってしまった場合、適切な金額の慰謝料請求等を算定するために必要なのが「後遺障害等級」です。しかし実際に等級が決まったとき、本当に症状に対する等級が妥当なのかはわかりづらく、しばしば当事者間でトラブルの種になります。そこで実際にココナラ法律相談のオンライン無料法律相談サービス「法律Q&A」によせられた質問をもとに、後遺障害等級認定の妥当性について古山隼也弁護士に解説していただきました。

人身事故の後遺障害等級、認定結果は妥当?

相談者のバネッサさん(仮名)は、先日人身事故の被害に遭い、次のような症状が残ってしまいました。

 

  • むち打ちによる手の痺れ
  • 腰のヘルニアによる足の痺れ
  • 目の視力低下(0.6は残っている)
  • 目の運動機能障害(斜視・複視)

 

そこで相手の保険会社に後遺障害認定を依頼し、後遺障害の併合10級と通知の紙が来たのですが、バネッサさんはその等級が妥当なのかわからず、困っています。保険会社からは「後遺障害の等級に納得してもらわないと示談交渉ができない」と言われているようです。

 

そこで、次の点についてココナラ法律相談「法律Q&A」に次の2点について相談しました。

 

  1. バネッサさんの症状に対する後遺障害等級認定は妥当なのか。
  2. 後遺障害の異議申立てを検討すべきか。また、もし異議申立てをする場合、示談交渉に入ってからではできないのか。

等級認定の理由は、結果通知の「別紙」を確認

後遺障害等級認定の理由は、結果通知に添付されている「別紙」(右上に「別紙」と書かれています)で、症状ごとに分けて説明されています。そのため、ご自身の受けた認定結果の理由を確認したいときは、まず「別紙」を読んでください。そして、そこに書かれている理由に納得できなければ、異議申立てを検討することになります。

 

しかし、後遺障害等級の認定には基準がありますので、この基準を知らなければ「別紙」を読んでも、そこに書かれている理由が適切かどうか判断することはできません。

 

そのため、ご自身の症状に関する後遺障害等級の認定基準を理解する必要があります。後遺障害等級の認定基準は労災保険の障害認定基準に準じるとされていますので、労災保険の障害認定基準を参照します。

 

それでは、バネッサさんの症状に対して認定された併合10級は、等級として妥当でしょうか。バネッサさんの症状は大きく分けて4つありますので、症状ごとにご説明します。

 

むち打ちによる手の痺れ

むち打ちによる手の痺れが該当する可能性のある後遺障害等級は、次の2つです。

 

12級 13号 | 局部に頑固な神経症状を残すもの
14級 9号 | 局部に神経症状を残すもの

 

12級13号の認定基準は「障害の存在が他覚的に証明できるものにあたるかどうか」で、判断のポイントは「画像検査、神経学的検査の異常所見の有無」にあります。

 

つまり、レントゲン検査やMRI検査で骨棘等による神経根の圧迫などが認められるかどうか(画像所見)、深部腱反射検査などで異常が見られるかどうか(神経学的異常所見)が問題で、前者は特に重要です。

 

もしバネッサさんの認定結果が14級9号または非該当であれば、画像所見の有無や画像所見と整合する神経的異常所見の有無を主治医に確認して、これらが認められるのであれば異議申立てを検討することになります。

 

(ただし、13級以上に該当する後遺障害が既に2つ以上あるときは、むち打ちによる手の痺れが異議申立てによって12級13号に変更されたとしても、トータルの等級に変更ありません。後でご説明する「併合」のルールを見てください。)

 

もっとも、むち打ち(受傷名は「頚椎捻挫」「外傷性頚部症候群」とされることが多いです。)で神経根の圧迫などの画像所見があることは少なく、12級13号が認められることはまれであることに注意が必要です。

 

むち打ちで後遺障害等級が認定される場合、ほとんどが14級9号です。14級9号の認定基準は「障害の存在が医学的に説明可能なものにあたるかどうか」で、画像所見や神経学的異常所見がなくても、受傷時の状態や治療の経過などから認められることがあります。

 

バネッサさんの受けた認定結果が非該当で画像所見のない場合、14級9号の認定を求めて異議申立てを行うことが考えられます。

 

ですが、複数の後遺障害によるトータルの等級の繰上げには13級以上が必要ですので、既に併合10級の認定を受けているバネッサさんの場合、異議申立てをして14級9号が認められることによるメリットはほぼないと言えるでしょう。

 

腰のヘルニアによる足の痺れ

腰のヘルニアによる足の痺れが該当する可能性のある後遺障害等級は、むち打ちによる手の痺れと同じです。

 

そのため、バネッサさんの認定結果が14級9号に非該当であれば、12級13号を目指して異議申立てを検討することになります。(ただし、13級以上に該当する後遺障害が既に2つ以上あるときは異議申立てによって12級13号に変更されたとしてもトータルの等級に変更ないことも、むち打ちによる手の痺れの場合と同じです。)

 

12級13号を目指して異議申立てを検討される場合、MRI画像で外傷性の椎間板ヘルニアによる神経圧迫が確認でき、これと整合する神経学的異常所見があるか、主治医に確認するのがよいでしょう。

 

また、バネッサさんは既に10級の認定を受けているので、異議申立てをして14級9号の認められるメリットがほぼないのも、むち打ちによる手の痺れと同様です。

 

眼の視力低下

1眼の視力が0.6以下となった場合(バネッサさんのご説明では「0.6は残っている」とされていますが、視力が0.6である場合も含まれます。)13級1号の認定を受けられる可能性があります。ここでいう「視力」は矯正視力を指しますので、眼鏡やコンタクトレンズを使用すれば視力が0.6を超える場合、後遺障害等級の認定を受けることができません。

 

また、視力を測定しただけで等級が認められるわけではなく、検査によって外傷による眼球や視神経の異常が見られる必要があります。

 

もしバネッサさんの認定結果が非該当で、1眼の視力が0.6に低下し、外傷による眼球などの異常が認められるのであれば、異議申立てを検討することになります。(同一眼球に眼の視力低下と眼の運動障害がある場合、併合のルールで準用等級を定めることになります。たとえば、13級1号と11級1号の場合、準用10級となります。)

 

13級 1号 |1眼の視力が0.6以下になったもの

 

バネッサさんのご説明では視力低下が1眼なのか両眼なのか分かりませんが、もし両眼の視力が0.6以下であれば9級1号の認定を受けられる可能性がありますので、異議申立てを検討することになります。

 

9級 1号  |  両眼の視力が0.6以下になったもの

眼の運動障害(眼球運動障害(斜視)、複視)

眼球運動障害(斜視)、複視が該当する可能性のある後遺障害等級は、次のとおりです。

 

<眼球運動障害(斜視)>

11級 1号  |  両眼の眼球に著しい運動障害を残すもの
12級 1号  |  1眼の眼球に著しい運動障害を残すもの

 

「著しい運動障害を残すもの」とは、眼球の注視野(頭部を固定し、眼球を運動させて直視することのできる範囲をいいます。)の広さが2分の1以下になったことをいいます。

 

<複視>

10級 2号  |  正面を見た場合に複視の症状を残すもの
13級 2号  |  正面以外を見た場合に複視の症状を残すもの

 

バネッサさんは既に併合10級の認定を受けているので、眼球運動障害(斜視)、複視に対して後遺障害等級が認められたと考えられます。

 

眼に関する後遺障害で問題となりやすい交通事故と症状との因果関係はクリアしていると思いますので、あとは検査結果がバネッサさんの症状を正しく表しているかを確認することで、異議申立てを行うか検討することになるでしょう。

次ページ等級の繰上げを目指すなら「併合」のルールに注目

人気記事ランキング

  • デイリー
  • 週間
  • 月間

メルマガ会員登録者の
ご案内

メルマガ会員限定記事をお読みいただける他、新着記事の一覧をメールで配信。カメハメハ倶楽部主催の各種セミナー案内等、知的武装をし、行動するための情報を厳選してお届けします。

メルマガ登録
TOPへ