(※写真はイメージです/PIXTA)

資産家の父親は、100歳近い年齢で大往生。生前より5人の子どもたちに気を配り、不平等にならないよう資産を分配してきました。ところが、遺言書にあった遺産分割の指示に子どもたちが困惑する事態に…。相続実務士である曽根惠子氏(株式会社夢相続代表取締役)が、実際に寄せられた相談内容をもとに、生前対策について解説します。

100歳近い父、5人の子どもに囲まれ大往生

今回の相談者は、70代の伊藤さんです。100歳近い父親が亡くなり、相続が発生しましたが、遺言書の内容について悩んでいるということで、筆者の事務所を訪れました。

 

伊藤さんは10代後半で母親を亡くしています。父親は再婚しましたが、再婚相手である後妻も10年前に亡くなりました。伊藤さんのきょうだい構成は、長男である伊藤さん、長女、二女、二男、そして、父親と後妻との間に生まれた長男の5人であり、この5人が今回の相続人です。

 

きょうだい同士の関係は円満で、問題はありません。また、伊藤さんは結婚以来実家のそばに暮し、父親だけでなく、継母の面倒も見てきました。

 

伊藤さんの父親は生前から、伊藤さんやきょうだいへ現金や土地を贈与しており、子どもたちも全員「贈与=イコール財産分与」と認識していました。

 

父親が亡くなったときに残っていた資産は、父親が暮らしていた自宅建物と敷地、父親の出身地である隣県の土地、預貯金数千万円、そして、伊藤さんと共有名義になっている、伊藤さんが住んでいる自宅建物と敷地です。

長男、遺言書の通りの分割では納税資金に困窮か

伊藤さんの父親は、公正証書遺言を作成していました。そこには、「父親が保有する資産のうち、父親が暮らしていた自宅と、伊藤さんが暮らす自宅の共有分を伊藤さんに相続させる、それ以外は全員均等に」とありました。内容について、きょうだい全員異論はありませんが、伊藤さんは懸念していることがあるといいます。

 

「父は、隣県に祖父から相続した土地を持っているのです。じつは、遺言書にはこの土地の分け方まで指示があり、〈隣県の土地は、子どもたち5人で均等に相続したうえで売却し、売却代金を平等に分けるように〉と記載されておりまして…」

 

もし遺言書のとおりに均等に分割して相続したら、当然ですが、売却代金も5分の1です。そうなると、相続税額が一番多い伊藤さんは、税金の支払いができなくなる可能性があるといいます。

相続人の合意で遺言書の内容と違う遺産分割ができる

筆者と提携先の税理士が協議して提案したのは、隣県の土地以外は遺言書を執行するけれども、隣県の土地については「子ども5人に均等に相続させる」とする遺言を守ると納税に不都合が生じることから、この土地についてのみ、全員で遺産分割協議をすることでした。

 

それにより、

 

●全員が相続分に合わせて無理なく相続税を払える割合で相続する

 

もしくは、

 

●伊藤さんが1人で相続し、売買代金から納税や諸費用を差し引いた残りを代償金としてほかのきょうだいに払う内容の遺産分割協議をする

 

上記2つの方法のいずれかがいいのではないかと提案しました。

 

伊藤さんはきょうだい全員と協議の結果、契約の手間を考え、まずは伊藤さん1人で相続し、売却代金のなかから全員の相続税を支払い、残りを均等に分けることにしました。きょうだいからの合意も得られ、相続登記はスムーズに終了しました。

 

該当の土地ですが、建売用地として地元の不動産会社から購入希望があり、相続評価以上の価格で売却できるという幸運に恵まれました。申告期限前に余裕のあるスケジュールでとんとん拍子に話が進み、以降の手続きすべて、不安もなく無事に終了したのです。

必ずしも「遺言通り」の分割にしなくてもよい

伊藤さんのお父様は、異母きょうだいを円満にまとめてきたうえ、90歳を過ぎてからも公正証書遺言について気を回すことができるなど、とても配慮のある方だとお見受けしました。しかしながら、願わくは、遺言書の作成時に納税についてもう少し検討を重ねておけばよかったというところでしょうか。

 

伊藤さんに、父親の遺言書を活かし、隣県の土地についてだけ遺産分割協議をすればいいことを説明すると、本当に喜ばれ、安堵されました。その後はすべて予定通りに進み、きょうだいの皆さんにも喜んでもらうことができました。

 

遺言書があっても、相続人全員の合意があり、遺産分割協議ができるなら、必ずしも遺言書のとおりに分割しなくても構いません。遺言書を活かしながら、一部の財産の分割内容を変えたいときは、その財産だけの分割協議書を作成して手続きすることが可能なのです。

 

また、納税のために売却する土地は、相続人の代表が相続し、ほかの相続人に代償金を払う方法が売却や登記の手続きはしやすいといえます。

 

 

※登場人物は仮名です。プライバシーに配慮し、実際の相談内容と変えている部分があります。

 

 

曽根 惠子
株式会社夢相続代表取締役
公認不動産コンサルティングマスター
相続対策専門士

 

◆相続対策専門士とは?◆

公益財団法人 不動産流通推進センター(旧 不動産流通近代化センター、retpc.jp) 認定資格。国土交通大臣の登録を受け、不動産コンサルティングを円滑に行うために必要な知識及び技能に関する試験に合格し、宅建取引士・不動産鑑定士・一級建築士の資格を有する者が「公認 不動産コンサルティングマスター」と認定され、そのなかから相続に関する専門コースを修了したものが「相続対策専門士」として認定されます。相続対策専門士は、顧客のニーズを把握し、ワンストップで解決に導くための提案を行います。なお、資格は1年ごとの更新制で、業務を通じて更新要件を満たす必要があります。

 

「相続対策専門士」は問題解決の窓口となり、弁護士、税理士の業務につなげていく役割であり、業法に抵触する職務を担当することはありません。

 

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本記事は、株式会社夢相続のサイト掲載された事例を転載・再編集したものです。

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