過去の戦い方で臨んだロシア軍は短期決戦に失敗
2022年2月24日のロシア侵攻が始まる前、「軍事侵攻はないだろう」というのが、大方の専門家の見方でした。でも、私の考えは違っていました。なぜなら、ロシアはウクライナとの国境付近に1年前から新たな基地を造っていたからです。目的もなく基地を造ることはあり得ません。極東部隊がベラルーシに派遣されたという情報も得ていました。これによって「ロシアはやる気だ」と確信したのです。
同時に「決戦は短期になる」とも予想していました。ところが、ロシアは短期決戦に失敗したのです。もう一つ、ロシアの大きな怠慢、最悪の失敗。それは、最初にウクライナの対空火器、防空網を叩かなかったことです。
普通なら少なくとも2〜3日、できれば1週間くらいかけて相手の空軍基地や対空火器を攻撃し、制空権(戦闘機が飛べる状況)を確保します。同時に、サイバー戦をしかけて、情報システムを破壊したり、混乱させたりします。いわゆるハッカー行為や、電波塔への攻撃などです。こうやって、相手の飛び道具を奪い、目と耳を塞ふさいだうえで、地上部隊を投入していく訳です。
しかし、ロシアは初日の夜明け前に2〜3時間それをしただけで、地上部隊を侵攻させ、上空に輸送機を飛ばしてパラシュート部隊を降下させた。どうなったと思いますか?
対空火器が残っているので、パラシュート部隊は撃ち落とされる。戦闘機も思うように飛べない。戦車は燃料が切れて立ち往生。ドローンに破壊される戦車もありました。
戦車は重く燃費が悪く、前と後ろを叩かれたら最後、身動きが取れません。小回りの利かない戦車や地上部隊を動かすなら、燃料給油車や防空火器、ドローンを飛べなくする電子戦部隊も同行させなければならないのです。ところが、ロシアはそんな基本さえ不十分だった。なぜか?
やはり、過信と慢心と言えるでしょう。過去のチェチェンやシリアの戦いでは、空爆が主で、地上軍を壊滅させた後で掃討部隊が乗り込んでいった。しかし時代は変わったのです。新たな戦い方への準備が明らかに不足していました。