戦争は新たな時代に突入。ハイブリッド戦争の実態とは
かつて戦争は「人間と人間」が戦うものでした。そこに銃や大砲が導入され「兵器と人間」の戦いになりました。戦いの舞台も、陸上から海へと広がりました。歴史好きの方なら、日露戦争の「連合艦隊vs.バルチック艦隊」を思い浮かべるでしょう。軍艦と軍艦が向き合い、大きな砲弾を撃ち合う戦いです。
さらに飛行機の時代になると、空爆によって、街が破壊されるようになりました。軍人と軍人の戦いに市民も巻き込まれるようになったのです。
しかも今は、数千キロ離れた場所から、正確にミサイルが飛んでくるようになりました。攻撃する側は発射ボタンを押すだけ。戦いの痛みも、爆風も、人のうめき声や戦場の臭いも感じないまま、敵を攻撃できてしまいます。それを迎え撃つミサイルもボタンを押すだけ。「兵器と兵器」の戦いです。戦争のカタチは一変したのです。
そして今、戦争はさらに新たな時代に突入しました。今回のロシアとウクライナの戦いでは"新しい戦争のカタチ"がはっきり見えたと思っています。「軍事」と「非軍事」を組み合わせた"ハイブリッド戦"です。
軍事戦とは、これまでと同じような兵器を使った戦いです。非軍事戦とは、ひと言で表現すると「情報」を使った戦いです。そもそもハイブリッド戦は、ロシアが始めたものです。
実例で話しましょう。2014年のクリミア危機の際には、ロシアは次のような情報戦をしかけていました。
①ネットを通じてデマを流す。
②デマを信じた大量の民兵がクリミアに侵攻し、放送局などを制圧。
③住民投票の結果、ロシアが勝利し、クリミアはロシアに併合された。
つまりインターネット情報を武器に変え、言わば"戦わずして勝った"のです。今回のウクライナ侵攻でも、ロシアは事前に「ウクライナの独裁者に虐しいたげられている同胞を助ける」とデマを流しました。ネット時代ならではの戦略です。
統制・専制国家の軍事技術が卓越している理由
軍事技術の発展は、人類にとって進化なのか? 退化なのか? そんな疑問をもつ人も多いでしょう。その議論は他に譲ることにして、一つ言えるのは「人類が続く限り、技術は進化し続ける」ということです。これは誰にも止められません。
AI、インターネット、ドローン、ロボット、脳科学、宇宙開発…科学は進化しつづけます。そして最新科学は、ことごとく軍事にも使用されるのです。今注目の"量子"も軍事に導入され、新たな脅威となるでしょう。量子コンピューター、量子通信、量子暗号など"見えない世界"が戦いの主戦場になっていきます。"量子を制する者"が軍も世界も制するのです。
ウクライナの例でもアメリカは量子コンピューターを使い、ロシアの暗号を解いたとも言われています。"ナノ・ロボット"は本来、規制がかけられるべきです。しかしそれができないのは、最新技術が"民間"のものだからです。民間の技術開発は、軍事目的で行っているわけではありません。だから規制はかけにくい。中国が「軍民融合」を目指す理由の一つは、そこにあります。
そして事実、中国の軍事技術が急激に進化したのは「軍民融合」の結果だと言えます。軍民融合が"統制・専制国家"ほど行われやすいのは当然です。民間は政府から「その技術を寄こせ」とか「○○を開発せよ」と言われたら、逆らえない訳ですから。だから中国、ロシア、北朝鮮などは、軍事技術が飛躍的に高まりやすいのです。
ところが、民主主義国家では、そうはいきません。例えば、アメリカの国防総省がGoogleに対し「AIの技術を高めたいから、ビッグデータが欲しい」と言ったら「NO」と言われました。「軍事利用はさせない」と。
日本はさらに厳しく"軍事利用"の可能性は徹底的に排除されます。このために「産・官・学」は連携を取れません。たとえそれが「国防」に関することでもです。AIもサイバー(ネット)も量子も産(民間企業)・官(政府や自衛隊)・学(大学や研究機関)がバラバラに研究・開発を行っている"もったいない"状態なのです。
佐藤まさひさ
参議院自民党国会対策委員長代行
自民党国防議員連盟 事務局長