ウクライナ危機でNATO加盟国の足並みがそろうも…
国際関係は一筋縄ではいきません。それぞれの国がさまざまな国と、経EU済支援、技術協力、歴史などで連携しているからです。各国には事情があり、思惑もあります。EUもNATOも一枚岩とは言えませんでした。トランプ前大統領は、NATOの防衛費をGDPの2%に引き上げよと要求していました。
「なんでヨーロッパとの貿易赤字が7兆円以上あるのに、NATOの国防費の8割をアメリカの血税で負担しなければならないのだ。おかしいだろう。自分のことは自分でやれ」
と。そんな風潮の中、今回のウクライナ危機があり、潮目は一気に変わりました。おそらくこれは、プーチン大統領も計算外だったでしょう。ヨーロッパがこれほど急にまとまるとは思わなかったはずです。
経済重視のドイツでさえ「国防費をGDP比2%超」に増額して予算を組み、フィンランドやスウェーデンはNATO加盟を正式に申請しました。2022年3月24日にG7(先進7ヵ国)首脳会合がベルギーで開催されました。G7はアメリカ、イギリス、ドイツ、フランス、日本、カナダ、イタリア。日本からは岸田首相が参加しました。
会議では「中国がロシア制裁の抜け穴になってはいけない」と話し合ったのに、結局、共同声明には、それが抜けていました。ドイツの反対があったからです。ドイツと中国は経済的な関係が深く、例えば中国の公用車にはドイツ車が並んでいたりします。ヨーロッパは一気にまとまったように見えますが、やはり国ごとに利害関係があり、何が作用して、どんなことが起こるかはわからないのです。
台湾問題などの“有事”を想定するなら、日本が今しなければならないのは、ヨーロッパに“本気”で連帯を示すことでしょう。そうしなければ、本当の意味の「日・米・欧」というつながりが、台湾有事においては機能しません。日本有事でも同じことです。
おそらく台湾有事にはNATOは条約上も地理的関係からも、まとまって動くことはできません。国連も期待できません。ASEANはどうか? 中立の立場を取るでしょう。中国との関係がありますから、あからさまに台湾や日本に味方をすることはできません。
それでは、お隣の韓国はどうでしょうか? 動いてくれるはずがありません。中国とのビジネス関係が非常に深いのですから。ただ台湾海峡が不安定になれば、韓国に中東の石油が入ってこなくなるリスクはあります。ゆえに韓国の新政権は台湾海峡の安定に汗をかくべきです。
そう考えると、現段階では、助けてくれる国はアメリカとオーストラリア、そしてNATO諸国の英仏ぐらいしかありません。とはいえ、オーストラリアは強力な友好国ですが同盟国ではないので、アメリカと比べるとやや弱くなります。
英仏は近年、インド太平洋地域に関心を強めていますので、その関係を強化するチャンスです。アメリカは同盟国ですが、どんどん内向きになっているし、自分が汗をかかないと助けてくれないということは、この本で再三述べてきたとおりです。
中国の暴走を抑えるためには、インドは絶対に必要な存在です。QUADが本格的に動き出したことは、第四章でもお伝えした通りです。しかしインドは歴史的にもロシアとのつながりが深く、長年、軍事を含めた技術的な恩恵を受けてきました。いきなり離れる訳にはいかないでしょう。
サイバーやレーザー技術等、技術分野でのイスラエルとの連携も重要な視点です。そうしたことも含めて、新しい連携を模索し続けなければならないのです。