(※写真はイメージです/PIXTA)

都内一等地をはじめとする母親の資産を巡り、自分を除く3人のきょうだいが平等に相続できるよう奔走する、関西在住の長女。母が存命のうちにめどをつけるべく必死になったのには、ある理由がありました。相続実務士である曽根惠子氏(株式会社夢相続代表取締役)が、実際に寄せられた相談内容をもとに解説します。

平等主義が招いた、複雑怪奇な不動産共有

今回の相談者は、関西地方在住の会社員の山川さんです。80代になる母親の将来の相続について不安があるということで、筆者のもとを訪れました。

 

山川さんは4人きょうだいの長女で、20代後半で結婚して以降、夫の出身地の神戸で暮しています。実家は品川区で、いまは広い自宅に母親が1人で生活しており、きょうだいである二女・長男・三女は、それぞれ都内の賃貸物件に暮しています。父親は数年前に亡くなっています。

 

母親が暮らす家は広い敷地があり、自宅建物のほかに貸家が2軒建っています。自宅は駅近の広い道路に面した角地という好立地で、母親は年金と家賃収入で悠々自適の生活です。

 

「父親の相続時、不動産を全員の共有で相続してしまいまして…。当時は問題なかったのですが、母が亡くなったあと、揉めるのではないかと心配しています」

 

お話を伺うと、広い自宅敷地は2筆に分かれており、敷地とそこに建つ自宅・貸家2軒は、母親・二女・長男・三女の共有名義だというのです。

 

「私は結婚して以降、神戸で生活していて、今後も東京に戻る予定はありません。ですので、父が亡くなったとき、私はそれなりの現金をもらって、残りのお金と不動産は母とほかのきょうだいで分けるように言ったのです」

 

自宅敷地は、もともとは自宅建物がある部分だけだったのが、隣地が売り出されたのを山川さんの父親が購入したことで2筆の状態となり、その後、家賃収入を得るために、貸家を建築したという経緯があります。

 

「私の母も、妹や弟も、本当に性格がのんびりしているというか、世間知らずなところがありまして…。父の相続時も〈平等にしよう〉といって、現在の状態になったのです」

 

山川さんは、相続を経験した夫から「このままにしていると、将来大変なことになる」と指摘されたそうです。母親にもアドバイスしたものの、「そうなのね、どうにかしなければね」と繰り返すばかりで、まったく行動に移さないため、しびれを切らしたということでした。

 

「妹たちも弟も、すでに家庭があって子どもがいるんです。母の相続までうやむやにしたら、大変なトラブルになると思うんです…」

トラブルのリスクをはらむ「共有」の解消から着手

山川さんの母親の相続が発生した場合、2筆の土地の上に3棟の建物が建っている不動産の、母親の持ち分を子どもたちで相続することになります。

 

筆者の事務所の税理士が計算したところ、相続財産は品川区の不動産と現預金で、相続税が1000万円程度かかることがわかりました。

 

相続税の基礎控除を超えているため、生前からの節税対策を検討する必要もありますが、一番の問題は、共有名義の不動産です。不動産は金融資産のように均等に分けることが難しいため、遺産の分割時に相続人間でトラブルになりやすいのですが、今回のように、さらにそれが共有状態であれば、問題は一層複雑です。筆者と税理士は、母親の生前に共有を解消しておくことをお勧めしました。

資産を交通整理して、二女・長男・三女へ平等に分割

筆者と税理士は、下記のように提案しました。

 

●二女・長男・三女が、土地建物を各1箇所ずつ相続できるようにする

 

山川さんのきょうだいである、二女・長男・三女が、土地建物を各1箇所ずつ相続できるようにします。

 

建物3つ(自宅・貸家2軒)に対し、土地が2筆であるため、土地を各相続人が1筆ずつ相続できるよう、3筆に分筆します。そして、各々取得する不動産が相続時に単独で取得できるよう、それぞれがお互いの土地に有している持分を交換します。

 

そうすることで、母の法定割合が1/2、各々きょうだいの持分が1/2となります。ポイントは、分筆の際はお互いの土地の評価額に差が出ないようにすることです。

 

●母に公正証書遺言を作成してもらう

 

2筆の土地を3筆に分筆することで、土地建物が1箇所ずつとなり、二女・長男・三女が1箇所ずつ相続できる形になったあとは、母親が、それぞれ姉弟に相続させる旨の公正証書遺言を作成します。そうすれば、母の相続時に、各人が単独で不動産を相続することが可能となります。

 

このように、生前に複雑な不動産の共有問題を解消することで、相続争いを未然に防ぐことができます。

長姉だけが気づいていた、きょうだいの配偶者の腹の内

相続対策の手続きを行うにあたり、音頭を取った神戸在住の山川さんは大忙しでしたが、なんとか無事に完了しました。筆者がきょうだいのために奔走したことをねぎらうと、山川さんは笑いながら、少し困ったような表情を見せました。

 

「私は生活拠点が関西ですし、家も仕事もあるし、なにも困っていません。だから、父の相続時にもらった現金で十分なのです。きょうだいたちは、私と違って性格がおっとりしているのですが、じつは配偶者たちはそうではなくて…。弟の妻は、父が亡くなってから母にしつこく同居を持ち掛けて、そのたびに断られていますし、末の妹の夫からは、私の相続分について、腹を探るようなことをたびたび聞かれて、ウンザリしていました。でも、母やきょうだいはそういったことに気が回るタイプではなく、心配だったのです」

 

山川さんは、トラブルのない穏やかな親族関係が、母親の相続時に壊れてはいけないと危惧したといいます。

 

「きょうだい3人でほぼ平等に分けられるだけの土地があるんです。自分たちが育った家を、きょうだい仲よく受け継いでいってほしい…」

 

妹や弟に配慮する長女の思いやりに、筆者は頭が下がる思いでした。

 

 

※登場人物は仮名です。プライバシーに配慮し、実際の相談内容と変えている部分があります。

 

 

曽根 惠子
株式会社夢相続代表取締役
公認不動産コンサルティングマスター
相続対策専門士

 

相続対策専門士とは?◆

公益財団法人 不動産流通推進センター(旧 不動産流通近代化センター、retpc.jp) 認定資格。国土交通大臣の登録を受け、不動産コンサルティングを円滑に行うために必要な知識及び技能に関する試験に合格し、宅建取引士・不動産鑑定士・一級建築士の資格を有する者が「公認 不動産コンサルティングマスター」と認定され、そのなかから相続に関する専門コースを修了したものが「相続対策専門士」として認定されます。相続対策専門士は、顧客のニーズを把握し、ワンストップで解決に導くための提案を行います。なお、資格は1年ごとの更新制で、業務を通じて更新要件を満たす必要があります。

 

「相続対策専門士」は問題解決の窓口となり、弁護士、税理士の業務につなげていく役割であり、業法に抵触する職務を担当することはありません。

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本記事は、株式会社夢相続のサイト掲載された事例を転載・再編集したものです。

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