「なぜあなたたちは私たちにするなということをしているのですか?」…世界の国家元首の前で問いかけた12歳の少女

「なぜあなたたちは私たちにするなということをしているのですか?」…世界の国家元首の前で問いかけた12歳の少女
(※写真はイメージです/PIXTA)

1970年に「生命科学」という分野の創出に関与し、早稲田大学、大阪大学で教鞭をとった理学博士の中村桂子氏。生物を知るには構造や機能を解明するだけでなく、その歴史と関係を調べる必要があるとして「生命誌」という新分野を創りました。そして、「歴史的文脈」「文明との相互関係」も見つめ、科学の枠に収まらない知見で生命を広く総合的に論じてきました。科学者である彼女が、年齢を重ねた今こそ正面から向き合える「人間はどういう生き物か」「人として生きるとは」への答えを、著書『老いを愛づる』(中公新書ラクレ)として発表。自身が敬愛する各界の著名人たちの名言を交えつつ、穏やかに語りかける本書から、現代人の明日へのヒントとなり得る言葉を紹介します。

重要なことは国民投票で決定するスウェーデン

グレタさんは、普通の人の考え方が大事だと言っています。

 

私も、一人では何もできないと凹みがちではありますが、でも一人一人が大切だとも思っており、高校生という純粋にものが考えられる時代に素直にそれを表に出すのはすばらしいと、彼女には感心しています。

 

スウェーデンの社会が若者に思い切り行動できる雰囲気をつくっているというところもあるのかなと思います。

 

実は、長女がスウェーデンの文化に関心を持ち、ストックホルム大学に通いました。思いがけないことに、その間の1986年にチェルノブイリの原発事故があり、しかもその後、風がスウェーデンに向かって吹いて放射能汚染物質がとんでいくという事態になったのです。

 

本当に心配し、呼び戻すことも考えましたが、送られてくる情報から気をつければ大丈夫と判断しました。ヨーロッパの人は少しの雨なら傘をさしませんので、それはしないようにと注意する手紙を書いたことを思い出します。メールのない時代でしたから。

 

ただその時、日本の技術はもっとしっかりしているから、日本では事故は起きないだろうと思っていました。今となっては間違っていたことになります。絶対安全などというものはないのですね。スウェーデンにも原子力発電所がありますので、どうするか関心を持ちました。

 

このような時スウェーデンは、国民投票をします。ただ原発については、すでに1979年に起きたスリーマイル島での事故を受けた1980年の国民投票で「脱原発」が決められていたのです。

 

具体的には「2010年までの全原発閉鎖」です。一人一人の判断がそういう答えを出したのです。でも、ここでスウェーデンの人たちが考えているのは○か×かではありません。実はその後、エネルギーの必要性から考えて2010年には政策を見直し、方針を変えたことでそれがわかります。

 

私たちは、2011年の東日本大震災の時に東京電力福島第一原子力発電所の事故を経験しましたので、今では原発について厳しい目を持っています。これから日本ではどうしたらよいでしょう。

 

それは私たち日本人の判断であり、それにはスウェーデンのように国民一人一人が参加しての判断が必要だと私は思っています。

 

実際に、長女を預かってくださった老夫婦と話していると、社会は自分たちが動かしているのだという感じがよく伝わってきて羨ましかったことを思い出しています。

 

税金について、納税用の書類を見せながら、とても高いけれど国がやってくれることを考えると文句はないとはっきり言われ、私はそうは思ってないぞと心の中でつぶやきましたね。

 

理想的な国はどこにもなく問題はあるのでしょうが、納得して暮らしている様子が羨ましかったのです。私たちも、家族のことでしたら、その一員として責任を持って行動するのがあたりまえになっています。

 

それをちょっと広げて社会の一員としても責任を持ち、自分たちが暮らしやすい社会にするためには自分の行動に意味があるのだと思えるようになるとよいですね。

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老いを愛づる

老いを愛づる

中村 桂子

中公新書ラクレ

白髪を染めるのをやめてみた。庭掃除もほどほどに。大谷翔平君や藤井聡君にときめく――自然体で暮らせば、年をとるのも悪くない。人間も生きものだから、自然の摂理に素直になろう。ただ気掛かりなのは、環境、感染症、戦争、…

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