「なぜあなたたちは私たちにするなということをしているのですか?」…世界の国家元首の前で問いかけた12歳の少女

「なぜあなたたちは私たちにするなということをしているのですか?」…世界の国家元首の前で問いかけた12歳の少女
(※写真はイメージです/PIXTA)

1970年に「生命科学」という分野の創出に関与し、早稲田大学、大阪大学で教鞭をとった理学博士の中村桂子氏。生物を知るには構造や機能を解明するだけでなく、その歴史と関係を調べる必要があるとして「生命誌」という新分野を創りました。そして、「歴史的文脈」「文明との相互関係」も見つめ、科学の枠に収まらない知見で生命を広く総合的に論じてきました。科学者である彼女が、年齢を重ねた今こそ正面から向き合える「人間はどういう生き物か」「人として生きるとは」への答えを、著書『老いを愛づる』(中公新書ラクレ)として発表。自身が敬愛する各界の著名人たちの名言を交えつつ、穏やかに語りかける本書から、現代人の明日へのヒントとなり得る言葉を紹介します。

国連会議で世界の指導者たちに問いかけた12歳の少女

グレタさんは私にとっては孫の世代です。そこで、孫に叱られている気分がした時に、こんな気持ちになったことが前にもあったなという気がして、思い出しました。

 

今から30年ほど前の1992年に、ブラジルのリオデジャネイロで、環境と開発に関する国連会議(地球サミット)があり、そこに集まった世界の指導者たちに12歳の少女、セヴァン・スズキが、大人への疑問を投げかけたことを。

 

カナダ国籍ですが、名前から想像できるように日系で、年齢からすると、私の子どもにあたります。

 

彼女はこう言ったのです。

 

学校で、いや、幼稚園でも、あなたたち大人は私たち子どもに、世の中でどうふるまうかを教えてくれます。たとえば、

 

●争いをしないこと

●話し合いで解決すること

●他人を尊重すること

●ちらかしたら自分で片づけること

●ほかの生きものをむやみに傷つけないこと

●分かち合うこと

●そして欲張らないこと

 

ならばなぜ、あなたたちは、私たちにするなということをしているのですか。

 

そして、「もし戦争のために使われているお金を全部、貧しさと環境問題の解決のために使えばこの地球はすばらしい星になるでしょう。私はまだ子どもだけれどそのことを知っています」と。

 

グレタさんより語り口は柔らかいけれど、子どもに言い聞かせながら自分たちはそれを実行していない大人への怒りはまったく同じですね。この時すでに、私たちが便利さや豊かさを求めるあまり二酸化炭素を排出しすぎていることはわかっていました。

 

環境問題はそれだけでなく、工場建設のために緑の森を壊すなど、さまざまな問題を起こしてきました。もちろん環境の大切さに気づいて、良質な環境を維持するための活動を熱心に続けてきた人たちも少なくありません。

 

でも、社会全体としては、経済優先でここまできました。

 

それなら多くの人々が豊かになったかと言えば、富の格差は広がって、貧困問題も深刻になっています。個人的にはこの30年間、生きものとして生きることの大切さを考え続け、そこで大切だと思ってきたのは、まさにここで二人の少女が言っていることと重なります。

 

生きものとしてのヒトの特徴には「分かち合う」があります。他の生きものに比べて「争いをしない」という選択が好きなのもヒトの特徴です。そういうことを考えていながら社会に向けて強い言葉をぶつけることはせずにきました。戦うことが得意でないからです。

 

でも少女たちを見ていると、何をぐずぐずしていたのかなと自分が不甲斐なくなることも確かです。

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老いを愛づる

老いを愛づる

中村 桂子

中公新書ラクレ

白髪を染めるのをやめてみた。庭掃除もほどほどに。大谷翔平君や藤井聡君にときめく――自然体で暮らせば、年をとるのも悪くない。人間も生きものだから、自然の摂理に素直になろう。ただ気掛かりなのは、環境、感染症、戦争、…

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