「なんで勉強しなきゃいけないの?」に対する答えが秀逸。『たそがれ清兵衛』に学ぶ子どもの導き方 (※写真はイメージです/PIXTA)

1970年に「生命科学」という分野の創出に関与し、早稲田大学、大阪大学で教鞭をとった理学博士の中村桂子氏。生物を知るには構造や機能を解明するだけでなく、その歴史と関係を調べる必要があるとして「生命誌」という新分野を創りました。そして、「歴史的文脈」「文明との相互関係」も見つめ、科学の枠に収まらない知見で生命を広く総合的に論じてきました。科学者である彼女が、年齢を重ねた今こそ正面から向き合える「人間はどういう生き物か」「人として生きるとは」への答えを、著書『老いを愛づる』(中公新書ラクレ)として発表。自身が敬愛する各界の著名人たちの名言を交えつつ、穏やかに語りかける本書から、現代人の明日へのヒントとなり得る言葉を紹介します。

子ども時代の疑問「なんで勉強しなきゃいけないの」

「学問したら何の役に立つんだろう」

 

                         (『たそがれ清兵衛』より)

 

子どもの頃、勉強は嫌いではありませんでした。今まで知らなかったことを知ると、とっても嬉しくなったものです。

 

今でも本を読んだりテレビを見たりして、新しい星が生まれるところを大きな望遠鏡で撮影した写真に驚き、さまざまな場所で暮らすさまざまな人々の生き方に感心する日を送っています。子どもの頃と同じだなあと思います。

 

子ども時代は、原っぱへ行くとびっくりするほど上手にトンボをとる男の子がいて、すごーいと思いました。今は『ポツンと一軒家』(テレビ朝日系)という番組で、野菜を上手につくり、裏山をきれいに整備して暮らす人々に感心しています。

 

先祖伝来の地を守っての暮らしを大切にし、お墓や神社のお掃除をていねいになさる姿からは充実感がうかがえます。時には山を眺めながらお風呂を楽しみたいからと露天風呂を自分でつくってしまう人もあり、感心しながら羨んでいます。

 

大人にも子どもにも暮らし方が上手な人はたくさんいますから、学びに終わりはありません。

 

学校での勉強も遊びの延長で楽しんでいましたが、そうは言っても夏休みにたくさん宿題が出ると、遊びたい気持ちから「なんで勉強しなきゃいけないの」と思ったこともありました。

 

本当は遊びたいというだけのことだったのですが、ちょっと真剣な顔をして考えてもみたものです。答えなどあるはずもありませんけれど。

『たそがれ清兵衛』に見る江戸時代の教育

こんな話を始めたのは、山田洋次監督の映画『たそがれ清兵衛』に見出しに掲げたセリフがあったからです。

 

原作は藤沢周平です。藤沢さんの小説の登場人物は、器用な生き方とは言えないけれど、心惹かれる生き方をしているので、夜遅くにちょっと時間を見つけて読んだりしています。

 

映画は清兵衛の次女以登(いと)が大人になってからの回顧という形をとり、その役を岸惠子さんがみごとに演じていらっしゃるので、DVDを買って時々観ています。

 

妻が病弱でしかも認知症の母を抱えている清兵衛は、夕方に城の鐘が鳴ると同時に帰宅して家の仕事をします。定刻退社ですね。飲みに誘っても断るつき合いの悪い奴というわけで、「たそがれ清兵衛」という仇名をつけられました。

 

映画では、急いで帰った清兵衛が囲炉裏端で内職をする脇で、長女萱野(かやの)が『論語』を暗唱しています。

 

寺子屋で先生と一緒に読んだところの復習です。『論語』と聞くと「過ちを改めざるをこれ過ちという」など、ちょっと難しいけれど大事だとわかる言葉を親から聞かされ、これが『論語』という生き方の基本が書いてある本にある言葉だと教えられたのを思い出します。

 

父の世代は、入学前の小さな頃から親の前に座らされて『論語』の素読(そどく)をしたと言います。すぐに意味がわからなくても、声に出してくり返しているうちに自分のものになり、一生忘れず生きる基本になると考えてのことでしょう。

 

『論語』は孔子が始めた儒教という特定の教えであり、そこで語られていることをそのまま受け入れましょうなどと言うつもりはありません。時代は違いますし、さまざまな価値観はあって当然です。

 

ただ、日常使われる言葉が親から子へと伝わるのは悪くないので、今だったら自分の好きな本を子どもたちと一緒に読むのがよいかなと思います。絵本もよいですね。

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    JT生命誌研究館 名誉館長

    1936年東京生まれ。JT生命誌研究館名誉館長。理学博士。東京大学大学院生物化学科修了。国立予防衛生研究所をへて、71年三菱化成生命科学研究所に入り、日本における「生命科学」創出に関わる。しだいに生物を分子の機械ととらえ、その構造と機能の解明に終始することになった生命科学に疑問をもち、独自の「生命誌」を構想。1993年「JT生命誌研究館」設立に携わる。早稲田大学教授、大阪大学連携大学院教授などを歴任。『生命誌とは何か』(講談社)『生命科学者ノート』(岩波書店)『自己創出する生命』(ちくま学芸文庫)『中村桂子コレクション・いのち愛づる生命誌(全8巻)』(藤原書店)など著書多数。

    著者紹介

    連載「生命科学」の第一人者が、「老い」の愛し方を伝授!

    老いを愛づる

    老いを愛づる

    中村 桂子

    中公新書ラクレ

    白髪を染めるのをやめてみた。庭掃除もほどほどに。大谷翔平君や藤井聡君にときめく――自然体で暮らせば、年をとるのも悪くない。人間も生きものだから、自然の摂理に素直になろう。ただ気掛かりなのは、環境、感染症、戦争、…

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